この記事の要点
- 「突然」か「徐々に」かで、最初にやることが変わります
- 突然のときは受診が最優先。制度の話はそのあとです
- 要介護認定は、入院中でも申請できます。退院を待たないでください
- 安静にしすぎると、さらに歩けなくなります(廃用症候群)
- 福祉用具は先に買わないでください。介護保険が使えなくなります
実家に電話したら、母の様子がおかしい。あるいは帰省したら、父が立ち上がるのに苦労している。
昨日まで歩けていた人が、歩けなくなる。 これは、ある日突然起こります。
そのとき、何から手をつければいいのか。手順を6つに分けて書きます。最初の1つを間違えると、あとが全部遅れます。
手順① 緊急性を判断する
まず、制度の話は忘れてください。 受診が先です。
特に、次のような場合は急を要します。
すぐに救急車を呼ぶべき状態
- 片側の手足に力が入らない
- 顔の片側が下がっている
- ろれつが回らない、言葉が出ない
- 激しい頭痛
- 意識がはっきりしない
- ふらついて、まっすぐ歩けない
脳血管の疾患が疑われる状態です。時間との勝負になります。 迷ったら119番に電話してください。判断に迷う場合は#7119(救急安心センター)でも相談できます。
また、足に強い痛みがあり、体重をかけられない場合は骨折の可能性があります。無理に動かさず、整形外科を受診してください。
徐々に歩けなくなった場合
「気づいたら、前より歩けなくなっていた」という場合も、受診は必要です。
原因は複数あり、治療で改善するものも含まれます。
| 考えられるもの | 受診先の目安 |
|---|---|
| 腰や膝の痛み、骨折 | 整形外科 |
| 歩くとしびれ、休むと楽になる | 整形外科 |
| 動きが遅い、手足が震える | 脳神経内科 |
| 歩行障害・もの忘れ・尿失禁が揃う | 脳神経外科 |
| 安静が続いたあとの筋力低下 | かかりつけ医 |
手術で改善する場合があります
表の4行目に注目してください。歩行障害・認知機能の低下・尿失禁の3つが揃う場合、特発性正常圧水頭症の可能性があります。
国立長寿医療研究センターは、手術で治療可能な認知症があると説明しています。髄液を流すシャント手術で症状が改善した例が報告されています。
詳しくは認知症の初期サイン|受診までの5つの手順にまとめました。
どこを受診すればよいか分からない場合は、まずかかりつけ医に相談してください。 必要なら専門の医療機関を紹介してもらえます。
手順② 要介護認定を申請する
受診と並行して、すぐに動いてください。
要介護認定の結果が出るまで、平均39日かかります。 法律上は30日以内とされていますが、実際にはそれ以上かかるのが実情です。
入院中でも申請できます
「退院してから」と考える方が多いのですが、入院中でも申請できます。
退院してから申請すると、サービスが使えるようになるまでさらに1ヶ月以上かかります。入院中に出しておけば、退院と同時に使い始められる可能性があります。
入院先に医療ソーシャルワーカーがいれば、申請を代行してくれることもあります。
窓口は市区町村の介護保険担当課、または地域包括支援センターです。相談は無料です。
申請から結果までの流れは、こちらの記事にまとめました。
認定調査では、実態を正確に伝える
調査のとき、本人が普段より元気に受け答えすることがあります。その場では「できます」と答えても、実際にはできていない。
ここで家族が補うことが重要です。ポイントは「いつ、何が、どれくらいの手間か」を伝えること。
一次判定はコンピュータが74項目から算出しますが、個別の手間は「特記事項」にしか入りません。 詳しくは認定調査で家族が伝えることをご覧ください。
手順③ 安静にしすぎない
ここは見落とされやすく、かつ影響が大きい部分です。
動かない時間が続くと、さらに歩けなくなります。 これを廃用症候群といいます。
筋力の低下、関節の動きの悪化、心肺機能の低下。安静そのものが原因で、状態が進みます。
「転ぶと危ないから寝かせておく」は逆効果
心配のあまり、動かさないようにする方がいます。気持ちは分かりますが、結果的に回復を遠ざけます。
どこまで動かしてよいかは、医師やリハビリ職の判断が必要です。 自己判断せず、受診時に必ず聞いてください。
「どこまで動かして大丈夫ですか?」
「してはいけない動きはありますか?」
退院後にリハビリを続けたい場合、デイケア(通所リハビリテーション)という選択肢があります。医師の指示に基づくリハビリを受けられます。
手順④ 福祉用具を手配する
先に買わないでください。 ここが最も多い失敗です。
介護保険を使うには、ケアプランに位置づけられている必要があります。 通販で先に買ってしまうと、保険の対象になりません。
まずケアマネジャーに相談してください。福祉用具専門相談員が自宅を訪問し、状態と住まいを見て提案してくれます。
| 用具 | 扱い |
|---|---|
| 車いす、介護ベッド | レンタル(要支援1・2と要介護1は原則対象外) |
| 歩行器、杖 | 2024年4月からレンタルか購入を選べます |
| 手すり(床置き型) | レンタル |
| ポータブルトイレ、シャワーチェア | 購入(年10万円まで) |
福祉用具に公定価格はありません。 同じ商品でも事業所によって値段が違います。相談員には全国平均価格を提示する義務があるので、聞いてください。
詳しくは福祉用具のレンタルと購入にまとめました。
手順⑤ 家の環境を整える
歩けなくなると、それまで問題なかった場所が危険になります。
- 玄関の上がり框(靴を履くときにふらつく)
- 廊下(つかまるところがない)
- トイレまでの動線(夜間は特に危険)
- 浴室(またぐ動作、滑りやすい床)
- 寝室が2階にある場合の階段
手すりの設置や段差の解消には、介護保険の住宅改修が使えます。上限20万円です。
着工前に申請しないと1円も出ません
親が退院してくる、転倒が続いている。急いでいるときほど、この手順が飛びます。
工事を終えてから制度を知っても、遡って支給されることはありません。「工事の前に、まずケアマネジャーへ」だけ覚えておいてください。
詳しくは住宅改修20万円の使い方をご覧ください。
寝室が2階にある場合、1階に移すことを検討してください。 工事より効果が大きいことがあります。
手順⑥ 一人にできない時間を考える
歩けなくなると、それまで一人で過ごせていた時間が、そうではなくなります。
特に、こういう場面です。
- 夜間にトイレへ行こうとして転倒する
- 転んだまま起き上がれず、誰にも気づかれない
- 日中、家族が仕事に出ている間
まず公的なサービスを確認する
要介護認定が出れば、次のサービスが使えます。
| サービス | できること |
|---|---|
| 訪問介護 | 身体介助、生活援助(同居家族がいると制限あり) |
| 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 1日に何回でも短時間の訪問。24時間の通報体制 |
| 小規模多機能型居宅介護 | 通い・訪問・泊まりを月額定額で |
| ショートステイ | 数日から数週間の宿泊 |
定期巡回は、夜間の不安に対して有効です。 1日に何回来てもらっても月額定額で、24時間いつでも通報できます。
ただし事業所がない市区町村も多いので、まず確認が必要です。
自治体の緊急通報装置も確認する
多くの市区町村に、緊急通報装置の貸与制度があります。無料または低額です。
ただし、申請に「協力員」を1名以上登録する条件がある自治体が多い。 近所に頼める人がいないと、ここで詰まります。
公的制度が使えない場合の選択肢を含めて、一人暮らしの親の安否確認にまとめました。センサー型・カメラ型・駆けつけ型の違いと、費用の目安も書いています。
仕事との両立を先に考える
ここまでの手続きは、ほとんどが平日の日中に発生します。
- 医師の説明
- 認定調査の立ち会い
- ケアマネジャーとの面談
- 福祉用具の相談、住宅改修の打ち合わせ
有給休暇を使い切ってしまう方が多いのですが、制度があります。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 介護休暇 | 年5日。当日の朝でも口頭で申し出られます |
| 介護休業 | 通算93日。3回に分割できる |
| 所定外労働の制限 | 残業免除。介護が終わるまで期間の制限なし |
特に3つ目は知られていません。基本給が減らず、会社は原則として断れません。 詳しくは介護と仕事を辞めずに続けるをご覧ください。
辞める前に、使える制度を確認してください。
まとめ|最初の1週間でやること
受診する
突然なら救急。制度の話はそのあとです。
要介護認定を申請する
入院中でも申請できます。 結果まで平均39日。
動かしてよい範囲を医師に聞く
安静にしすぎると、さらに歩けなくなります。
ケアマネジャーに連絡する
福祉用具は先に買わない。 ケアプランへの位置づけが要ります。
家の危険な場所を確認する
住宅改修は着工前に申請。20万円まで。
一人にできない時間を洗い出す
夜間か、日中か。それによって使う制度が変わります。
歩けなくなったからといって、そのまま寝たきりになるとは限りません。原因によっては改善します。 そして、改善しない場合でも、支える仕組みはあります。
ただ、制度は申請しないと使えません。 そして結果が出るまでに時間がかかります。
まず受診。そして認定申請。 この2つを、同じ週のうちに済ませてください。
関連記事
出典・参考
- 国立長寿医療研究センター「認知症の原因となる正常圧水頭症」(歩行障害・認知機能低下・尿失禁の3徴候、シャント手術)
- 厚生労働省「介護保険制度」(要介護認定の申請、住宅改修費20万円、福祉用具貸与・特定福祉用具販売)
- 育児・介護休業法(介護休暇、介護休業、所定外労働の制限)
- 総務省消防庁「救急安心センター事業(#7119)」
この記事の情報は2026年8月時点のものです。当サイトは医療機関ではなく、記載内容は診断や治療の判断に用いることを目的としていません。歩行が困難になる原因は多岐にわたり、必要な検査や治療は個別に異なります。症状については必ず医師にご相談ください。

