この記事の要点
- 同居家族がいると、生活援助は原則として使えません
- その「同居」の定義が広い。二世帯住宅の上下階も、同じ敷地の別棟も同居扱いです
- 「家事に慣れていない」「遠慮がある」は、例外の理由になりません
- 爪切りは「医行為ではない」と国が明示しています。断られたら根拠を確認してください
- 生活援助でできない掃除も、身体介護の一環としてなら対応できる場合があります
訪問介護を使うことになると、まず戸惑うのが「これは頼めるのか」という線引きです。
掃除はしてもらえるのに、窓は拭けない。買い物は行けるのに、遠くの店はだめ。料理は作れるのに、家族の分は作れない。説明を聞いても、基準がつかめません。
調べてみると、線引きには理屈がありました。そして想像と違っていた点が4つありました。順に書きます。
訪問介護は2種類ある
訪問介護は、大きく2つに分かれます。この区別が、あとの話の前提になります。
| 身体介護 | 生活援助 | |
|---|---|---|
| 内容 | 食事・入浴・排せつの介助、着替え、移動の支援など本人の身体に触れる支援 | 掃除、洗濯、調理、買い物など家事の支援 |
| 同居家族がいる場合 | 使える | 原則として使えない |
制限が厳しいのは、生活援助のほうです。 ここから見ていきます。
驚いた事① 同居家族がいると生活援助は使えない
これがいちばん大きな発見でした。
同居している家族がいる場合、生活援助は原則として利用できません。 介護保険の基本理念が「自立支援」であり、家族ができることは家族が行うという前提だからです。
例外はあります。厚生労働省は「同居家族がいることのみをもって、利用の可否を機械的に判断しないように」という見解も示しています。
自治体が示している例外の条件は、おおむね次のとおりです。
| 例外に該当しうる状況 |
|---|
| 同居家族が障害や疾病により、家事を行うことが困難 |
| 同居家族も高齢で、家事を行うことが困難 |
| 同居家族が未成年で、支援が大きな負担になる |
| 同居家族が就業・学業により日中不在で、その間に必要な支援ができない |
| 家族関係に極めて深刻な問題があり、援助が期待できない |
働きながら介護している方は、4つ目に該当する可能性があります。 就労の状況や休日の状況を明確にし、ケアプランに記録しておく必要があります。
理由にならないもの
自治体の資料に、はっきり書かれています。
- 家事に慣れていない
- 家事をしたことがない
- 遠慮がある
- あまり関係が良くない
これらは例外の理由として認められません。「できない」ではなく「していない」だと判断されます。
驚いた事② 「同居」の範囲が広い
ここも意外でした。「同居」の判断は、住民票では決まりません。
船橋市の例では、次のように整理されています。
- 住民票に関わらず、同一の家屋に居住している場合
- 同一敷地内に居住している場合(同じ敷地の別の家屋に家族が住んでいる場合を含む)
つまり、こうなります。
| 住まいの形 | 扱い |
|---|---|
| 二世帯住宅で、1階に親・2階に子 | 同居 |
| 同じ敷地内の別棟に子が住んでいる | 同居 |
| 住民票を分けている(世帯分離) | 同居と判断されうる |
「玄関が別だから別世帯」とはなりません。 生活の実態で判断されます。
なお、これは市区町村によって運用が異なります。お住まいの自治体の基準を確認してください。 ケアマネジャーが把握しています。
驚いた事③ 爪切りは「医行為ではない」と国が明示している
これは逆方向の驚きでした。できないと思われている行為が、実はできる場合があります。
2005年(平成17年)、厚生労働省が通知を出し、「原則として医行為ではない行為」を明示しました。介護職員が行ってよい行為が整理されています。
「医行為」は、一般に言う「医療行為」とほぼ同じ意味です。医師法に基づく法律上の用語で、国の通知やガイドラインではこちらの表記が使われています。この記事でも通知に合わせて「医行為」と書きます。
| 原則として医行為ではないとされている行為(例) |
|---|
| 正常な状態の爪を爪切りで切る、ヤスリをかける |
| 耳垢の除去(耳垢塞栓を除く) |
| 軟膏の塗布、湿布の貼付、点眼 |
| 一包化された内服薬の内服介助、坐薬の挿入、点鼻 |
| 切り傷・擦り傷などの、専門的判断を要しない処置 |
| 口腔ケア(歯ブラシや綿棒での清拭) |
2022年にも追加の通知が出ており、インスリン注射の際の声かけ・見守り、血糖値の確認などが加えられています。2025年3月には、実施手順をまとめたガイドラインも公表されました。
ただし、それぞれに条件があります。爪切りなら「爪や周囲の皮膚に異常がなく、糖尿病等の疾患による専門的な管理が必要でない場合」に限られます。
断られたときの聞き方
「爪切りは医療行為なのでできません」と言われることがあります。国の通知では、正常な爪の爪切りは医行為ではないとされています。
事業所の方針として行わない場合もあるので、頭ごなしに否定はできません。ただ、こう聞いてみる価値はあります。
「原則として医行為ではない行為に含まれていると聞いたのですが、事業所の方針でしょうか」
なお、たんの吸引と経管栄養は、研修を受けた介護職員なら実施できます。 2012年から制度化されました。ただし事業所が都道府県に届け出て、登録事業所になっている必要があります。
医療的なケアが必要な場合は、対応できる事業所かどうかを最初に確認してください。
驚いた事④ 身体介護の一環なら掃除できる場合がある
4つ目です。生活援助が使えなくても、抜け道と呼べる整理があります。
松山市の資料に、こう書かれています。
- 失禁で床が汚れてしまった場合の掃除は、排泄介助の一環として身体介護で行う
- 入浴介助の後の浴室掃除は、入浴介助の一環として身体介護で行う
つまり、「掃除」という行為でも、身体介護に付随するものなら位置づけが変わります。
同居家族がいて生活援助が使えない場合でも、身体介護は使えます。その一環として対応できる範囲がある、ということです。
これはケアマネジャーとヘルパーの判断になるので、こちらから指示するものではありません。ただ、「生活援助が使えないから、掃除は一切だめ」と思い込む必要はありません。
できないこと(同居家族の有無に関わらず)
ここまでとは別に、そもそも訪問介護の対象外とされている行為があります。
本人以外のための行為
- 家族の分の食事を作る
- 家族の部屋の掃除、家族の洗濯物
- 来客の対応、来客用の食事
「ついでに」ができません。 訪問介護は本人へのサービスであり、本人が使わない部屋の掃除も対象外です。
日常生活の範囲を超える行為
- 大掃除、窓ガラス磨き、床のワックスがけ
- 草むしり、庭木の手入れ、家屋の修繕
- ペットの世話
- 正月・節句など特別な調理
基準は「日常生活の維持に必要かどうか」です。あれば快適だが、なくても生活は成り立つ。そういう行為は対象外になります。
その他
- 金銭管理、預貯金の引き出し(原則。日常の買い物の代行は可)
- 医師の指示がない医療行為
- 理美容(資格が必要なため)
- 本人不在時のサービス提供
通院の付き添いは、扱いが複雑です
自宅から病院までの移動介助は「通院等乗降介助」として算定できます。ただし病院内での付き添いは、原則として介護保険の対象外とされています。院内は病院のスタッフが対応するという整理です。
ただし、認知症などで見守りが必要な場合には、例外的に認められることがあります。運用が自治体によって異なるため、ケアマネジャーに確認してください。
できないことを頼みたいときは
介護保険で対応できない部分は、次の選択肢があります。
自費の訪問介護(保険外サービス)
同じ事業所が、保険外のメニューを持っていることがあります。1時間あたり2,500〜4,000円程度が目安です。同居家族がいて生活援助が使えない場合、ここで補う形になります。
自治体の高齢者向けサービス
配食、ゴミ出し支援、外出支援、寝具の洗濯などを実施している自治体があります。低額または無料のものが多い。 地域包括支援センターで確認してください。
シルバー人材センター
草むしり、庭木の剪定、大掃除など。介護保険で対象外になる作業の受け皿になります。地域ごとに料金が決まっています。
家事代行サービス
民間の事業者。介護の資格は前提としないので、身体介護は頼めません。家事だけなら選択肢になります。
まとめ|線引きの理屈
整理すると、判断の軸は3つでした。
- 本人のためか(家族の分は対象外)
- 日常生活に必要か(大掃除や庭仕事は対象外)
- 本人や家族ができないか(できることは対象外)
そして、いちばん見落とされやすいのが「同居家族がいると生活援助は原則使えない」という点です。二世帯住宅も、同じ敷地の別棟も同居扱いになります。
ただ、働きながら介護している場合は例外に該当しうる状況です。ケアマネジャーに、就労の状況を具体的に伝えてください。
「平日は9時から19時まで不在で、その間に食事の用意ができません。生活援助を使えないでしょうか」
ケアプランへの記録が必要なので、勤務時間と休日を具体的に伝えるほど話が進みます。
返ってくる答えは、だいたい3つ
この先で戸惑わないよう、想定される返答を挙げておきます。
| ケアマネジャーの返答 | 意味と、次にすること |
|---|---|
| 「サービス担当者会議で検討しましょう」 | 手続きが動き始めた合図。可能性は高い。会議には同席してください |
| 「同居家族がいるので難しいです」 | 原則を答えているだけの場合がある。例外の条件に触れて聞き直す |
| 「うちの市では認められていません」 | 自治体の運用の問題。市区町村の窓口に直接確認する |
「難しい」と言われたとき
原則を答えているだけの可能性があります。例外の条件を知っていることを示すと、話が変わることがあります。
「同居家族が就業により日中不在の場合は、例外にあたると自治体の資料で見ました。うちの場合は該当しないでしょうか」
それでも難しい場合、理由を聞いてください。 「本人がまだできるから」なのか、「自治体の運用で認められないから」なのかで、次の動き方が変わります。
- 本人ができると判断されている → 何がどこまでできるかを具体的に確認する。実態と違うなら、いつ・どんな困りごとがあったかを伝える
- 自治体の運用 → 市区町村の介護保険担当課に直接聞く。判断するのは最終的に市区町村です
記録を持っていくと早いです
「食事が用意できない」だけでは伝わりません。いつ、何が起きたかを書き留めておいてください。
- 8月5日 帰宅したら朝の食事がそのまま残っていた
- 8月9日 冷蔵庫に期限切れの惣菜が3つあった
- 8月12日 昼食を食べたか本人が覚えていなかった
具体的な事実があると、アセスメントに反映されやすくなります。
それでも折り合わない場合、ケアマネジャーは変更できます。ただしまず理由を聞くことが先です。 制度上できないことを求めていた、という場合もあります。
会社に介護のことを伝えるかどうかで迷っている場合は、会社に介護を伝えるタイミングと伝え方もご覧ください。
関連記事
出典・参考
- 厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(平成17年7月26日 医政発第0726005号/令和4年12月1日 医政発1201第4号)
- 厚生労働省「原則として医行為ではない行為に関するガイドライン」(令和6年度老人保健健康増進等事業/2025年3月)
- 介護保険法/指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(訪問介護)
- 同居家族がいる場合の生活援助の取扱い:調布市、船橋市、松山市、琴平町ほか各自治体の公表資料
- 喀痰吸引等制度:介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律(平成23年)
この記事の情報は2026年8月時点のものです。生活援助の可否、通院時の院内介助の取扱いなどは、市区町村によって運用が異なります。実際に利用できる範囲は、担当のケアマネジャーまたは市区町村の介護保険担当課にご確認ください。

