この記事の要点
- 入浴を嫌がる背景には、本人にとっての不快感や不安など、何らかの要因が隠れていることがあります
- この記事では、考えやすいように体・気持ち・環境・タイミングの4つに分けて整理します
- 無理に入れると、次の入浴を嫌がる原因になることがあります
- 「不潔になるよ」という言い方は、かえって拒否を強めることがあります
- 湯船につかることだけが入浴ではありません。清拭や足浴など、部分的なケアを取り入れる方法もあります
「今日はいい」「昨日入った」。何度誘っても、お風呂に入ってくれない。
数日たつと、においや皮膚の状態が気になってきます。それでも無理に連れて行くと、大声を出したり、手を払われたりする。
入浴の拒否は、介護する家族にとっても、介護職にとっても、よくある悩みです。調べてみると、「どう入れるか」の前に考えることがありました。 手順を6つに分けて書きます。
手順① まず無理に入れない
最初にやることは、いったん止まることです。
川崎幸クリニック院長で、認知症の人と家族の会の副代表理事でもある杉山孝博医師は、痛い思いや怖い思いを経験すると、次回からの入浴を嫌がる原因になると指摘しています。
無理に服を脱がせる、嫌がるのを押して浴室へ連れて行く。その日は入れたとしても、次からの拒否が強くなることがあります。
無理に入浴させることだけを目標にしない
入浴を拒否された日は、無理に入浴させることだけを目標にせず、清拭など別の方法で清潔を保つことも考えます。
「今日はやめておこうか」と引いて、時間をおいてから改めて声をかける。本人との関係を保つことが、次の入浴につながるという考え方もあります。
ただし、失禁が続いている、皮膚にトラブルがある、排泄物が付着しているといった場合は、入浴以外の方法で清潔を保つ必要があります。
手順② 嫌がる理由を分けて考える
入浴を拒否する背景には、本人にとっての不快感や不安など、何らかの要因が隠れていることがあります。 自分の気持ちや体の状態をうまく伝えられず、それが「拒否」という形で表れている場合もあります。
入浴拒否の背景は一つとは限りません。この記事では、家族が原因を考えやすいように「体・気持ち・環境・タイミング」の4つに分けて整理します。 医学的な分類ではなく、考えるための目安です。
| 分類 | 考えられる理由 |
|---|---|
| 体 | 腰や膝の痛み、浴槽をまたぐ動作がつらい、皮膚のかゆみ、便秘や尿意の不快感、体調不良 |
| 気持ち | 裸を見られる恥ずかしさ、過去に転んだ・熱かったなどの嫌な記憶、入浴が何か分からない不安、面倒・疲れる |
| 環境 | 脱衣所や浴室が寒い、お湯が熱い・ぬるい、シャワーの水圧が強い、照明や音 |
| タイミング | テレビを見ている、眠い、ほかにやりたいことがある |
理由によって、合う対応が変わります。 痛みが理由なら声かけを工夫しても解決しませんし、寒さが理由なら脱衣所を暖めることが先です。
理由を探るために見ること
- どの場面で嫌がるか(誘った時点/脱衣所/服を脱ぐとき/浴槽に入るとき)
- 時間帯によって違うか
- 誘う人によって違うか
- 入浴後に「気持ちよかった」と言うことがあるか
どこで嫌がるかは、理由を考える一つの手がかりになります。 たとえば服を脱ぐところで嫌がる場合でも、何をするのか分からない、脱ぐ動作が難しい、裸になることへの抵抗、寒さ、過去の嫌な経験など、複数の可能性があります。
手順③ 体の不調を確認する
見落とされやすいのが、体の理由です。
関節や腰に痛みがあると、浴室への移動や浴槽をまたぐ動作に痛みが伴います。本人が痛みをうまく伝えられないと、「お風呂が嫌」という形で表れることがあります。
- 歩き方や立ち上がり方がいつもと違わないか
- 皮膚にかゆみや傷、赤みがないか
- 便が出ているか、トイレを気にしていないか
- 熱や体調の変化がないか
気になる点があれば、主治医や訪問看護師、ケアマネジャーに相談してください。 急に拒否が強くなった場合は、体調や環境の変化がないか確認し、気になる場合は医療職に相談してください。
体の不調と行動の関係は、認知症の暴言と介護拒否にもまとめています。
手順④ 環境を整える
寒さが、入浴を嫌がる一因になっていることもあります。
- 脱衣所と浴室を暖めておく
- お湯の温度を本人の好みに合わせる(熱すぎないように)
- シャワーの水圧を弱めにする
- タオルや着替えを先に用意して、待たせない
- 脱衣所にバスタオルを用意し、体を覆えるようにしておく
なお、冬の入浴では、拒否への対応とは別に、入浴中の事故にも注意が必要です。 消費者庁は事故防止の目安として、湯温41度以下、つかる時間は10分までを示しています。詳しくはヒートショック対策にまとめました。
お風呂だと分かる工夫
認知機能の低下によって、これから何をするのかが分からず、不安になっている場合があります。
その場合に、タオルや風呂桶を見せるなど、視覚的な手がかりを使う方法も紹介されています。 伝わり方には個人差があります。
伝え方の工夫は、親と意思疎通ができなくなったらにもまとめています。
手順⑤ 声かけとタイミングを変える
避けたい言い方
杉山医師は、「風呂に入らないと体が不潔になりますよ」「何日も入っていませんよ」といった言い方は、反発して、かえって拒否が強くなることがあるとしています。
| 避けたい | 試してみたい |
|---|---|
| 「もう何日も入ってないよ」 | 「温まると気持ちいいよ」 |
| 「においがするから入って」 | 「さっぱりしようか」 |
| 「早く入って」 | 「お風呂から上がったら、お茶にしようか」 |
| いきなり服を脱がせる | 自分で脱げるところは本人に任せる |
杉山医師の資料では、気持ちよさや、入浴後の楽しみにつなげる勧め方が紹介されています。
タイミングを変える
- 順番や時間にこだわらず、機嫌のよいときに誘う
- テレビや食事など、ほかのことをしている最中は避ける
- 一度断られたら、時間をおいてから改めて誘う
- 誘う人を変えてみる
恥ずかしさへの配慮
裸を見られることへの抵抗は、年齢や病気に関係なく自然な気持ちです。
- 必要なところ以外はバスタオルで覆う
- ほかに人がいないことを伝える
- 訪問介護やデイサービスでは、同性の職員への希望を伝え、対応可能か事業所に確認する(体制によって対応できない場合もあります)
- 脱ぎ着しやすい服を普段から選んでおく
本人をだますような誘い方はできるだけ避ける
「病院に行くから」などと別の理由で誘い、浴室に連れて行く方法が紹介されることがあります。
本人をだますような形で浴室へ連れて行く方法は、できるだけ避けてください。 本人が不信感を抱き、その後の声かけを警戒する可能性もあります。
手順⑥ 全身浴にこだわらない
湯船につかることだけが、お風呂ではありません。
全身浴が難しい日は、部分的なケアを取り入れる方法もあります。 ただし部分的なケアは全身浴の代わりになるものではないので、皮膚や排泄の状態に合わせて必要なケアを考えてください。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 清拭 | 温かいタオルで体を拭く |
| 足浴・手浴 | 足や手だけをお湯につける部分的なケア |
| 洗髪、洗顔 | 部分ごとに行う |
| 陰部洗浄 | 失禁がある場合など、必要に応じて行うケア |
本人が受け入れやすければ、足浴や手浴などから始め、徐々に入浴につなげる方法もあります。
家で難しければサービスを使う
杉山医師は、自宅の風呂を嫌がるならデイサービスの入浴を、デイサービスを嫌がるなら自宅の風呂を、というように場所を変えてみることも挙げています。
| サービス | 内容 |
|---|---|
| デイサービスの入浴 | 職員のいる場で入浴する。ケアプランへの組み込みが必要 |
| 訪問介護の入浴介助 | 自宅の浴室での入浴を、ヘルパーが介助する |
| 訪問入浴介護 | 専用の浴槽を自宅に持ち込み、看護職員と介護職員が入浴を支援する |
家族には強く拒否する一方、家族以外の人からの声かけなら受け入れやすい場合もあります。 反応は本人によって異なり、サービスを使えば必ず入浴できるわけではありません。デイサービスそのものを嫌がることもあります。利用できるかどうかはケアプランや事業所によるので、ケアマネジャーに相談してください。
「家ではお風呂を嫌がって入れません。デイサービスや訪問で入浴を手伝ってもらうことはできますか?」
入らない日が続くときは
何日入らなければ問題、という一律の目安があるわけではありません。 入浴回数だけで判断するのではなく、皮膚の状態や排泄の状況なども確認します。
次のような変化があれば、主治医や訪問看護師、ケアマネジャーに相談してください。
- 皮膚の赤み、ただれ、傷、発疹、かゆみ、痛み
- 陰部やおしりの皮膚トラブル
- 発熱や、急な体調の変化
- 急に拒否が強くなった
強いにおいが続く場合は、清潔を保つことが難しくなっているサインかもしれません。ケアの方法を見直すきっかけとして、ケアマネジャーに相談してください。
介護する側が消耗したとき
毎日誘って、毎日断られる。それだけで、かなり疲れます。
入浴を拒否されるのは、あなたの誘い方が悪いからとは限りません。介護の専門職にとっても、よくある悩みです。
入浴を家族だけで抱えず、サービスに任せる部分を作ってください。 消耗が続いているときは、介護でイライラしてしまうときもご覧ください。
まとめ|理由を分けてから誘い方を変える
まず無理に入れない
怖い思いをすると、次の入浴を嫌がる原因になることがあります。清拭など別の方法も考える。
嫌がる理由を分けて考える
体・気持ち・環境・タイミング。どこで嫌がるかを見る。
体の不調を確認する
痛みやかゆみが「嫌」という形で表れることがあります。
環境を整える
脱衣所を暖める。お風呂だと分かる工夫を。
声かけとタイミングを変える
「不潔になるよ」より「気持ちいいよ」。だますような誘い方は避ける。
全身浴にこだわらない
部分的なケアを取り入れる方法も。家族以外が関わると受け入れやすい場合もある。
入浴の拒否は、本人が困っていることのサインかもしれません。
今日入れることだけを目標にせず、清潔を保つ方法を組み合わせながら、明日も誘える関係を保つこと。それが、結果的に近道になることがあります。
関連記事
出典・参考
- 杉山孝博(川崎幸クリニック院長、公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事)「認知症と入浴拒否への対応」(「不潔になりますよ」などの言い方で拒否が強くなることがある、痛い思いや怖い思いが次回の入浴拒否の原因になる、機嫌のよい時の入浴、デイサービスと自宅の使い分け)
- 花王プロフェッショナル「認知症ご利用者様の『入浴拒否』入浴拒否をする理由と対策」(本人なりの理由があること、タオルや風呂桶などで入浴のイメージを伝える工夫)
- 消費者庁「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」(湯温41度以下、10分までの目安)
- 厚生労働省 認知症施策関連資料(BPSDの要因として身体症状、不安、環境やケアなど複数の要因を確認する考え方)
この記事の情報は2026年9月時点のものです。当サイトは医療機関ではなく、記載内容は診断や治療の判断に用いることを目的としていません。入浴の可否や方法は、体の状態によって異なります。持病がある方や皮膚の状態が気になる場合は、主治医や訪問看護師にご相談ください。サービスの利用は、ケアプランや事業所によって異なります。

