この記事の要点
- 同居して介護している人の6〜7割が、悩みやストレスを抱えています
- イライラは性格の問題ではなく、条件の問題です
- 条件とは睡眠不足・自由時間ゼロ・終わりが見えないことの3つ
- 感情を我慢する方法を探しても、解決しません
- 変えられるのは条件のほうです。そのための制度があります
親に強く当たってしまった。あとで自分を責める。「こんなはずじゃなかった」と思う。
それでも翌日も同じことが起きて、また同じように後悔する。
この記事では「イライラしないコツ」は書きません。深呼吸や気分転換で解決するなら、とっくに解決しているはずだからです。
代わりに、なぜそうなるのかと、何を変えれば減るのかを書きます。
7割が同じ状態にいる
まず、数字から。
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、同居して介護している人のうち、悩みやストレスを抱えている人は6割近くから7割台にのぼります。
そして、ストレスの原因として最も多いのが「家族の病気や介護」です。ストレスがあると答えた人のうち、約8割がこれを挙げています。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 同居の介護者でストレスがある人 | 6〜7割 |
| ストレスの原因1位 | 家族の病気や介護(約8割) |
| 介護者・要介護者ともに75歳以上 | 35.7%(2001年は18.7%) |
イライラしているのは、あなただけではありません。 統計上は、そちらのほうが多数派です。
これは慰めではなく、事実の確認です。7割が同じ状態にいるなら、それは個人の資質の問題ではありません。
イライラは条件から生まれる
では、なぜそうなるのか。3つの条件が重なっているからです。
1. 睡眠が足りない
夜中に何度も起こされる。物音がするたびに目が覚める。眠っていても、常に警戒している。
睡眠不足は、感情のコントロールを直接的に難しくします。 意志の力ではどうにもなりません。
2. 自由にできる時間がない
一人になれる時間がない。予定を立てられない。「今日は何もしない日」を作れない。
仕事なら休みがあります。介護には、それがありません。
3. 終わりが見えない
これがいちばん大きいかもしれません。
介護期間の平均は4年7ヶ月(55.0ヶ月)ですが、これは平均であって、4年を超えて介護した人は約4割います。そして始まった時点では、それがいつまで続くか誰にも分かりません。
この3つが揃うと、誰でもそうなります
睡眠不足で、自由時間がなく、終わりが見えない。この条件下で穏やかでいられる人は、ほとんどいません。
つまり、問題はあなたの性格ではなく、置かれている条件です。変えるべきは、感情ではなく条件のほうです。
我慢する方法を探しても解決しない
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。
「怒らないようにしよう」と決意しても、条件が変わらなければ同じことが起きます。そして、また自分を責める。
この繰り返しは、疲れを増やすだけです。
減らすべきは、イライラそのものではなく、イライラが生まれる条件です。
| 効きにくい対処 | 効きやすい対処 |
|---|---|
| 感情を抑える努力をする | 介護から離れる時間を作る |
| 「病気だから仕方ない」と自分に言い聞かせる | 夜間の負担を減らす |
| もっと優しくしようと決意する | やらないことを決める |
| 一人で頑張る | 他人に任せる |
右側は、すべて制度やサービスで実現できることです。
時間を作るための制度
具体的に、何が使えるかを並べます。
日中の時間を作る
| サービス | できること |
|---|---|
| デイサービス | 日中を施設で過ごす。家族の負担軽減が目的に含まれます |
| 訪問介護 | 身体介助、生活援助(同居家族がいると制限あり) |
| 小規模多機能型居宅介護 | 通い・訪問・泊まりを月額定額で |
デイサービスの目的には、家族の負担軽減が明記されています。 「親のため」だけでなく「自分のため」に使ってよいということです。
夜の負担を減らす
夜間に何度も起こされるなら、定期巡回・随時対応型訪問介護看護という選択肢があります。
- 1日に何回来てもらっても月額定額
- 5分程度の短い訪問でよい
- 24時間、ボタンで通報できる
「押せば誰か来る」という状態があるだけで、眠れる夜が増えます。 ただし事業所がない市区町村も多いので、まず確認が必要です。
数日離れる
ショートステイを使えば、数日から数週間、施設で預かってもらえます。
家族の休養は、制度が認めた正式な目的です
「自分が休むために預けるのは申し訳ない」と感じる方が多いのですが、介護者の休養(レスパイト)は、ショートステイの利用理由として正式に認められています。
ただし、都市部では数ヶ月前の予約が常態化しています。 「限界だから来週」は通りません。
いま切迫していなくても、定期的に使い始めておくほうが確実です。 定期利用のほうが予約も取りやすくなります。
やらないことを決める
制度以外にも、できることがあります。
介護の質を上げようとすると、際限がありません。 だから、あらかじめ「やらないこと」を決めておく。
- 毎日の掃除は週2回にする
- 手作りの食事を毎回は作らない(配食サービス、市販の惣菜)
- 入浴は週2回でよいと割り切る(デイサービスで入る)
- 洗濯物をたたむのをやめる
- 完璧にできない日があっていいと決めておく
手を抜くのではなく、続けるための調整です。 全力で走ると、どこかで止まります。
限界のサインを知っておく
次のような状態が続いている場合、感情の問題ではなく、体と心の消耗が進んでいる可能性があります。
- 眠れない、または眠っても疲れが取れない
- 食欲がない、または食べすぎる
- 何を見ても楽しいと感じない
- 些細なことで涙が出る
- 親の顔を見るのがつらい
- 手が出そうになったことがある
- 朝、起き上がるのに時間がかかる
当てはまるなら、自分の受診を考えてください
介護者自身が心身の不調を抱えることは珍しくありません。それは弱さではなく、負荷がかかり続けた結果です。
まずは自分のかかりつけ医に相談してください。「親の介護をしていて、こういう状態です」と伝えれば通じます。
あなたが倒れると、介護そのものが続きません。自分の体調を整えることは、介護の一部です。
相談できる場所
一人で抱えないでください。相談先があります。
| 相談先 | 内容 |
|---|---|
| 地域包括支援センター | 無料。サービスの調整も相談できる |
| ケアマネジャー | ケアプランの見直しで負担を減らせることがある |
| 自分のかかりつけ医 | 心身の不調について |
| 家族会、認知症カフェ | 同じ経験をした人に話せる |
| 認知症初期集中支援チーム | 全市町村に設置。訪問して支援。無料 |
ケアマネジャーへの伝え方
遠慮して「大丈夫です」と答えてしまう方が多いのですが、介護者の状況を把握することは、ケアマネジャーの仕事の一部です。
アセスメントの項目(課題分析標準項目23項目)には、「家族等の状況」が含まれています。 伝えるのは制度上の前提です。
「最近、夜眠れていません。日中も余裕がなくて、きつく当たってしまうことがあります」
「少し休む時間を作りたいのですが、使えるサービスはありますか?」
「限界です」と言っていい場面です。 ケアマネジャーはこうした相談に慣れています。
初回面談で何を伝えるべきかは、こちらの記事にまとめました。
家族会は意外に効きます
同じ立場の人と話すだけで、抱えているものが軽くなることがあります。
「うちもそうだった」と言ってもらえること。 それは、専門家のアドバイスとは別の意味を持ちます。
地域包括支援センターで、地域の家族会や認知症カフェを紹介してもらえます。
仕事を辞める前に
限界を感じると、「仕事を辞めれば楽になる」と考えることがあります。
ただ、辞めると状況が悪化することが多い。
- 収入が減り、サービスを使いにくくなる
- 介護から離れる時間がなくなる
- 社会とのつながりが切れる
- 介護が終わったあと、再就職が難しい
働き方を変える制度があります。特に所定外労働の制限(残業免除)は、介護が終わるまで期間の制限がなく、基本給も減りません。
詳しくは介護と仕事を辞めずに続けると介護離職を選ぶ前に確認したい5つの制度をご覧ください。
まとめ|変えるのは感情ではなく条件
整理します。
- 同居の介護者の6〜7割がストレスを抱えている
- イライラの原因は睡眠不足・自由時間ゼロ・終わりが見えないこと
- 感情を我慢する方法を探しても解決しない
- 変えられるのは条件。そのための制度がある
- 限界のサインが出ているなら、自分の受診を
今日できることを1つ挙げるなら、ケアマネジャーか地域包括支援センターに電話することです。
「介護をしていて、正直きついです。使えるサービスを見直したいのですが」
この一言で足ります。説明を用意する必要はありません。
そして、最後にもう一度書いておきます。
イライラすることは、親を大事に思っていないという意味ではありません。 むしろ、深く関わっているからこそ起きています。
7割の人が、同じ状態にいます。
関連記事
出典・参考
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」(同居の主な介護者の悩みやストレスの有無・原因、要介護者等と主な介護者の同別居の状況)
- 生命保険文化センター「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」(介護期間の平均55.0ヶ月=4年7ヶ月、4年を超えた人が約4割)
- 介護保険法(通所介護・短期入所生活介護の目的に家族の負担軽減が含まれる)
- 厚生労働省「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(老企第29号/「家族等の状況」を含む23項目)
この記事の情報は2026年9月時点のものです。当サイトは医療機関ではなく、記載内容は診断や治療の判断に用いることを目的としていません。心身の不調が続く場合は、医療機関にご相談ください。

