物盗られ妄想への対応|調べて驚いた4つのこと

この記事の要点

  • 軽症のうちに多く、進行するとほぼ見られなくなるとされています
  • いちばん世話をしている人が疑われるのは、頼りにされているからです
  • 否定しても納得は得られません。「一緒に探す」が基本の対応です
  • 薬の影響で興奮が強まっている可能性もあります。主治医に相談してください
  • 距離を置くことが正解のこともあります。 頑張って向き合い続ける必要はありません

「財布がない。あなたが盗ったんでしょう」

毎日世話をしている自分が、泥棒扱いされる。これは、頭で理解していても、こたえます。

認知症の症状の一つで、物盗られ妄想と呼ばれます。調べてみると、思っていたのと違う点が4つありました。順に書きます。

目次

驚いた事① 軽症のうちに多い

まず、これが意外でした。

物盗られ妄想は、軽症のアルツハイマー病の方に多く見られ、重症になるとほぼ見られなくなるとされています。

「認知症が進んだから起きる」のではありません。まだ多くのことが分かるからこそ、起きています。

精神科医の上田諭氏は、こう説明しています。

認知機能障害が少ないからこそ、身近な人に世話になる引け目や、能力を発揮したくてもできないジレンマがあり、それが周囲を攻撃する妄想の一因だと考えられている

つまり、こういう状態です

自分がしまった記憶が抜け落ちる。ところが「自分は大丈夫だ」という感覚は残っている。

「置き忘れるはずがない」→「ならば誰かが持っていった」。この順番で、本人なりに筋の通った説明を作ります。

本人にとっては、記憶の穴を埋める合理的な結論です。 嘘をついているのでも、意地悪をしているのでもありません。

そして、この症状はずっと続くわけではありません。 進行に伴って、いずれ収まっていくとされています。

いま渦中にいると「これが一生続く」と感じますが、期間限定の症状です。 ここは知っておいてください。

驚いた事② 疑われるのは頼られているから

「いちばん世話をしているのに、なぜ自分が」と思われるはずです。

これには理由がありました。

本人の視点で考えると、こうなります。財布のありかを知っていて、自分の部屋に入れる人。 それは、日常的に世話をしている家族です。

関わりの薄い親戚や近所の人は、そもそも財布の場所を知りません。疑いようがない。

だから、疑いは最も身近な人に向かいます。

疑われやすい人理由
同居している配偶者常に視界に入る
主に介護している娘・息子財布や通帳の場所を知っている
息子・娘の配偶者本人の生活領域に入る
ヘルパー部屋に出入りする

疑われることは、それだけ深く関わっている証拠です。

もちろん、そう言われて納得できるものではありません。ただ、「嫌われているから疑われる」のではないことは、押さえておく価値があります。

驚いた事③ 薬の影響の可能性がある

これは見落とされやすい点です。

抗認知症薬などの副作用で、興奮やいらだちが強まることがあります。 そのために妄想が悪化している場合があります。

次のような場合、主治医に相談する価値があります。

  • 薬を変えたあと、または量が変わったあとから症状が強くなった
  • 興奮が激しく、日常生活に支障が出ている
  • 本人も家族も消耗している

自己判断で薬を止めないでください

薬の調整は医師の判断が必要です。勝手に減らしたり止めたりすると、別の問題が起きます。

受診のとき、いつから・どんな症状が・どれくらいの頻度で出ているかを伝えてください。記録があると、判断の材料になります。

また、認知症以外の原因で妄想が出ることもあります。脱水、感染症、便秘、痛みなど、体調の変化がきっかけになる場合があります。

「急に始まった」「急に強くなった」なら、身体の不調を疑って受診してください。

驚いた事④ 距離を置くのが正解のこともある

これがいちばん意外でした。

多くの記事は「否定せずに寄り添いましょう」で終わります。ただ、それができないほど消耗している場合があります。

大塚製薬の資料に、こうあります。

疑いの目が特定の人にばかり向けられる場合は、他の家族からも誤解される可能性があり、大きな孤立感を抱くことになりかねません。そのようなときは少し距離をおいてみることも検討してみてください

離れることが、対応の一つとして認められています。

具体的には、こういう形です。

  • デイサービスの利用を増やす(顔を合わせる時間を減らす)
  • 他の家族に交代してもらう
  • ショートステイを使って、数日離れる
  • 訪問介護を入れて、介護の一部を任せる

「逃げる」ではなく「距離を調整する」ことです。 疑いの対象から一時的に外れることで、症状が落ち着く場合があります。

家族の休養は、制度が認めた目的です

ショートステイの利用理由として、介護者の休養(レスパイト)は正式に認められています。 後ろめたく思う必要はありません。

ただし都市部では数ヶ月前の予約が常態化しています。「限界だから来週」は通りません。 詳しくはショートステイの使い方をご覧ください。

その場でどう答えるか

実際に「盗ったでしょう」と言われたときの対応です。

やってはいけないこと

避けたい対応起きること
「盗ってない」と否定する「信じてもらえない」と感じ、対立が深まる
「自分でしまったんでしょう」と正論を言う記憶がないので納得できない。自尊心が傷つく
無視する、取り合わない不安が強まり、訴えが激しくなる
他の家族の前で説明させる本人が追い詰められる

「正しさ」で対応すると、必ず悪化します。 本人にとっては、記憶にないことを認めろと言われている状態だからです。

基本は「一緒に探す」

推奨されている対応は、こうです。

  1. まず不安に共感する

    盗ったかどうかではなく、困っている気持ちに応えます。

    「財布がなくなったら困るね」
    「大事なものだもんね。一緒に探そうか」

  2. 一緒に探す

    探す姿勢を見せることが、味方だという表明になります。

  3. 本人に見つけてもらう

    ここが要点です。先に見つけても、すぐ渡さないほうがよいとされています。

    「あ、あった」と家族が出すと、「やっぱりこの人が持っていた」と受け取られることがあります。

    「そのあたりにない?」と誘導して、本人の手で見つけてもらう。 そうすれば、自分で解決したことになります。

  4. 見つかったら、それで終わりにする

    「ほら、あったでしょう」と言わない。責めないことが、次につながります。

探す手間を減らす工夫

毎回本気で探すのは大変です。手間を減らす方法があります。

  • よく隠す場所を把握しておく(引き出しの奥、布団の下、タンスの中)
  • 財布の中身を減らす(少額だけにして、通帳は別に保管)
  • 予備を用意しておく(同じ財布をもう1つ。中に少額を入れておく)
  • 置き場所を決めて、目立つようにする

通帳と印鑑は別の話です

紛失や不適切な使用が心配な場合、金融機関に相談する方法があります。

2021年に全国銀行協会が指針を出し、認知症の方の預金について、親族が対応できる場合の考え方が整理されました。 詳しくは認知症で親の口座は凍結されるのかをご覧ください。

一人で抱え込まない

最後に、いちばん伝えたいことを書きます。

「病気だから仕方ない」と分かっていても、つらいものはつらい。 それは当然です。

大塚製薬の資料にも、こうあります。

疑われたときに湧き上がる驚きや悲しみ、怒りなどのさまざまな感情は無理に抑え込もうとせず、自分の気持ちをしっかり受け止める時間を持つことが大切です

相談できる先があります。

相談先内容
地域包括支援センター無料。サービスの調整も相談できる
ケアマネジャーケアプランの見直しで対応できる場合がある
主治医薬の調整、身体の不調の確認
認知症カフェ、家族会同じ経験をした人に話せる
認知症初期集中支援チーム全市町村に設置。訪問して支援。無料

家族会や認知症カフェは、意外に効きます。 「うちもそうだった」と言ってもらえるだけで、抱えているものが軽くなることがあります。

窓口は地域包括支援センターです。地域の家族会を紹介してもらえます。

まとめ|期間限定の症状

整理します。

  • 軽症のうちに多く、進行すると収まっていくとされています
  • 疑われるのは頼りにされているから
  • 否定せず、一緒に探して、本人に見つけてもらう
  • 薬や体調の影響も疑い、主治医に相談する
  • 距離を置くのも、認められた対応です

いま渦中にいると、この状態が永遠に続くように感じます。ただ、これは経過のなかの一時期です。

そして、その期間を乗り切るために一人で頑張る必要はありません。 サービスを使って距離を取ることも、正しい対応の一つです。

認知症の受診がまだの場合は、認知症の初期サイン|受診までの5つの手順をご覧ください。治療で改善する可能性のある病気もあります。

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出典・参考

  • 上田諭「【識者の眼】物盗られ妄想とは異なる被害妄想」Web医事新報(軽症のアルツハイマー病に多く、重症にはほぼ見られない/身近な人に世話になる引け目とジレンマ)
  • 大塚製薬 すまいるナビゲーター「認知症による物盗られ妄想の原因や対策と接し方」(感情を抑え込まない、距離をおくことの検討、家族会・認知症カフェ)
  • 物盗られ妄想は認知症の行動・心理症状(BPSD)の一つとされています
  • 厚生労働省「認知症初期集中支援チーム」関連資料

この記事の情報は2026年9月時点のものです。当サイトは医療機関ではなく、記載内容は診断や治療の判断に用いることを目的としていません。症状の現れ方や経過は個人によって異なります。薬の調整を含め、対応については必ず主治医にご相談ください。

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