この記事の要点
– 介護のために仕事を辞める人は、年間およそ10万人
– 辞める前に使える制度は、介護休業だけではない。残業免除も、時短勤務も、法律で決まった権利
– 2025年4月から、会社には介護に直面した社員へ制度を個別に知らせる義務ができた
– 「制度がないので」と断られても、法律上の権利は会社の規定より優先される
– 辞めてしまうと、介護休業給付金も、時短勤務も、すべて使えなくなる
最終更新:2026年8月6日
辞める判断は、いちばん最後でいい
親の介護が始まると、多くの人が最初に「仕事を続けられるだろうか」と考えます。総務省の就業構造基本調査によれば、介護や看護を理由に離職する人は年間およそ10万人います。
ただ、離職を選ぶ前に確認しておきたいことがあります。
介護を理由にした働き方の変更は、会社の温情ではなく、法律で定められた権利です。 育児・介護休業法に基づくもので、就業規則に書かれていなくても請求できます。
そして重要なのは、辞めた瞬間に、これらの権利がすべて消えるという点です。介護休業給付金も、時短勤務も、雇用されている人のための制度だからです。
順番としては、まず使える制度を全部並べる。その上で足りなければ、次を考える。この順序が確実です。
① 介護休業(通算93日・3回まで分割可)
まとまった時間が必要なときの制度です。給料の約67%が雇用保険から支払われます(介護休業給付金)。
対象家族1人につき93日で、3回まで分けて取れます。「入院した直後」「施設を探す時期」「入居手続きの時期」と、山場ごとに分けて使えます。
つきっきりで介護するための休みではなく、介護の体制を整えるための準備期間として設計されている点がポイントです。
→ 詳しくは「介護休業給付金の申請手順」で解説しています
② 介護休暇(年5日・時間単位で取れる)
対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日。1時間単位で取得できます。
通院の付き添い、ケアマネジャーとの面談、市役所での手続き。介護で必要になる用事は、丸一日かかるものばかりではありません。「午前中だけ」という使い方ができるのが、この制度の実用性です。
有給か無給かは会社の規定によりますが、取得そのものを拒むことはできません。
なお2025年4月から、勤続6か月未満の人を対象外にすることができなくなりました。 入社まもない人も取得できます。
③ 残業・深夜業の免除
見落とされがちですが、効果が大きい制度です。
所定外労働の制限
請求すれば、残業が免除されます。「減らす」ではなく「免除」です。介護が終わるまで、期間の制限なく請求できます。
時間外労働の制限
法定外の残業を、月24時間・年150時間以内に抑えるよう請求できます。
深夜業の制限
午後10時から午前5時までの勤務を免除するよう請求できます。
夜間の見守りが必要な時期に深夜勤務が重なると、それだけで生活が破綻します。この3つは、離職を考える前に真っ先に検討すべき選択肢です。
④ 短時間勤務などの措置(利用開始から3年で2回以上)
会社は、次のいずれかの措置を用意する義務があります。
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制度
- 始業・終業時刻の繰り上げ/繰り下げ(時差出勤)
- 介護サービス費用の助成
利用開始の日から3年以上の期間で、2回以上利用できることが条件とされています。介護休業の93日とは別枠なので、休業を使い切った後も、働き方を変えて続けられます。
どの措置を選ぶかは会社が決めますが、「何も用意していない」ことは認められません。
⑤ 個別の周知・意向確認(2025年4月から)
2025年4月の育児・介護休業法の改正で、会社に新しい義務が加わりました。
社員が介護に直面した旨を申し出たとき、会社は介護休業などの制度を個別に知らせ、取得の意向を確認しなければなりません。
さらに、40歳など一定の年齢に達した社員に対して、制度の情報を提供することも義務化されました。介護は準備期間が短いため、直面する前に知らせておく趣旨です。
あわせて、介護のためのテレワーク導入が努力義務になりました。義務ではありませんが、相談する根拠にはなります。
「そんな制度は聞いていない」という状況は、法律上あってはならないことになりました。相談したのに案内がなかった場合は、この改正を挙げて確認してみてください。
会社に「うちにはない」と言われたら
制度の存在を知らない担当者もいます。前例がない会社では珍しくありません。
覚えておいてほしいのは、育児・介護休業法に定められた権利は、就業規則に書かれていなくても行使できるということです。就業規則が法律を下回る内容であれば、その部分は無効になります。
また、介護休業などを理由とした解雇や不利益な取扱いは禁止されています。 降格、減給、契約更新の拒否なども含まれます。
話が進まないときの相談先は、各都道府県の労働局(雇用環境・均等部)です。無料で相談でき、必要に応じて会社への助言や指導も行われます。
それでも限界を感じたときは
制度を全部使っても、介護と仕事の両立が難しい局面はあります。夜間の対応が続く、遠距離で移動に時間がかかる、認知症の症状が進む——事情はさまざまです。
その場合でも、選択肢は「辞める」だけではありません。
介護サービスを増やす。 訪問介護、デイサービス、ショートステイ。ケアプランの見直しで、負担が変わることがあります。担当のケアマネジャーに「仕事を続けられなくなりそうだ」と正直に伝えてください。伝えなければ、プランは変わりません。
介護保険外のサービスを使う。 保険では対応できない時間帯や内容を埋めるサービスもあります。費用はかかりますが、離職して収入がゼロになるより、結果的に負担が軽いケースは少なくありません。
働き方そのものを変える。 辞めるのではなく、両立しやすい職場に移るという選択もあります。
順番として、辞めるという判断は、これらを検討し尽くしてからで遅くありません。 介護は先の見えない期間が続くことが多く、収入が途絶えた状態で長期化すると、介護そのものが立ち行かなくなります。
まとめ:辞める前にやること
- 地域包括支援センターに相談し、使えるサービスを洗い出す
- 会社に介護の状況を伝え、制度の説明を求める(会社には知らせる義務がある)
- 残業免除・深夜業免除を請求する
- まとまった時間が必要なら介護休業を使う(給付金あり)
- 復帰後は時短やフレックスに切り替える
ここまで試して、それでも難しければ、次の選択を考える。
介護は、一人で抱えると必ず行き詰まります。制度は、抱えなくて済むように作られています。使えるものは、遠慮せずに全部使ってください。
出典
- 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」(2025年4月施行分を含む)
- 総務省統計局「就業構造基本調査」
- 厚生労働省 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)
※ 本記事は2026年8月6日時点の制度に基づいています。制度は改正されることがあります。個別の適用については、勤務先の人事担当者、または都道府県労働局にご確認ください。

