この記事の要点
- 暴言や拒否を、本人が抱えている苦痛やニーズの表れとして捉える考え方があります
- 背景には身体的な要因があることがあります(便秘、脱水、痛み、感染症など)
- 急な変化なら、せん妄の可能性もあります。医療機関に相談を
- 薬の影響で症状が出たり強まったりすることもあります
- 記録が、対応を考える材料になります
優しかった親が、人が変わったように怒鳴る。
お風呂に入ろうと声をかけると拒否される。着替えさせようとすると手が出る。毎日世話をしている自分に、いちばん強く当たる。
これは、こたえます。頭では病気だと分かっていても、傷つきます。
調べてみると、こうした行動の捉え方が、近年変わってきていました。 手順を6つに分けて書きます。
「問題行動」ではなく伝えられない苦痛
まず、前提の話をします。
暴言や介護拒否は、かつて「問題行動」や「周辺症状」と呼ばれていました。
近年は、認知症とさまざまな要因が重なることで現れる「行動・心理症状(BPSD)」と呼ばれています。
そして、こう捉えられています。
BPSDを、本人が抱えているニーズや苦痛の表れとして捉える考え方があります。
認知機能の低下によって言葉でうまく表現しにくくなった苦痛や欲求が、行動として現れている可能性がある、という見方です。
「何か困っているのでは」と考えてみる
攻撃と決めつける前に、「何か困っていることがあるのではないか」と考えてみることが、対応の出発点になります。
「痛い」「怖い」「やめてほしい」といった気持ちが、行動として表れている可能性もあります。
そして、BPSDには認知機能の低下だけでなく、身体の不調、薬、環境、心理状態など、複数の要因が関係します。
背景にある3つの要因
BPSDの背景には、次のような要因があるとされています。
| 要因 | 例 |
|---|---|
| 身体的要因 | 便秘、脱水、痛み、感染症、他の病気 |
| 環境的要因 | 引っ越し、部屋の模様替え、介護者の交代、騒音、孤立 |
| 心理的要因 | ストレス、不安、孤独感、もともとの性格 |
身体的な不調が背景にないかを確認することは重要です。 ここから見ていきます。
手順① まず身体の不調を疑う
暴言や拒否が強まったとき、体に何か起きていないかを確認してください。
- 便が出ているか(何日出ていないか)
- 水分が取れているか
- 熱はないか
- どこか痛がっていないか(腰、膝、歯、床ずれ)
- 尿が出ているか、においが変わっていないか
- いつもより食べていないか
便秘、脱水、感染症、痛みなどの身体的な不調が、興奮や行動の変化に関係している場合があります。
本人がうまく「お腹が張って苦しい」と伝えられない場合、不機嫌になったり、触られることを拒んだりする形で表れることがあります。
入浴拒否は、痛みが理由のこともあります
お風呂を嫌がるとき、脱衣や移動の動作に痛みが伴っている可能性があります。
腰や膝、肩。服を脱ぐとき、浴槽をまたぐとき。どの動作で嫌がるかを見てください。
また、寒い、怖い、裸を見られたくないといった理由のこともあります。
手順② 急な変化ならせん妄を疑う
次に、いつから始まったかを確認してください。
急激な変化や意識の変化がみられる場合は、せん妄が起きている可能性があります。 認知症の人では、BPSDと似た症状として現れることもあるため、急な変化は医療機関への相談が必要です。
| せん妄 | BPSD | |
|---|---|---|
| 始まり方 | 突然。時期が特定できる | 徐々に |
| 意識 | もうろうとする時間がある | おおむね清明 |
| 1日の変動 | 大きく変動することがある。夕方から夜に目立つ場合も | 変動は比較的小さい |
| 経過 | 原因への対応で改善することがある | ケアや環境調整で軽くなることがある |
せん妄は、感染症や脱水、貧血などの身体的な原因で起こることが多いとされています。身体疾患や薬剤など、原因が特定できれば、その原因への対応によって改善することがあります。
急な変化がみられたときは、医療機関を受診してください。
詳しくは親と意思疎通ができなくなったらにまとめました。
手順③ 薬の影響を確認する
ここも見落とされやすい点です。
国立長寿医療研究センターは、医療関係者向けの資料で、BPSDが抗認知症薬(コリンエステラーゼ阻害薬)の開始以降に出現または悪化した場合、薬の変更や併用を検討するという考え方を示しています。
これは抗認知症薬に限った話ではありません。薬剤の開始や変更が、症状の出現・悪化と重なっている場合は、薬剤の影響について医師に確認することが大切です。
- 薬を始めた、または変えたあとから症状が強くなっていないか
- 量が増えたタイミングと重なっていないか
- 複数の医療機関から薬が出ていないか
自己判断で薬を中止しないでください
薬の調整は医師の判断が必要です。勝手に減らしたり止めたりすると、別の問題が起きます。
受診のとき、いつから・どんな症状が・どれくらいの頻度で出ているかを伝えてください。
お薬手帳を持参し、複数の医療機関にかかっている場合は、すべての薬を見てもらってください。
手順④ 記録をとる
「また怒鳴られた」だけでは、次の対応が見えません。
記録しておくのは、次の4つです。
| 記録する項目 | 例 |
|---|---|
| いつ | 9月10日 16時ごろ |
| どこで・何の直後に | 脱衣所で、服を脱がせようとしたとき |
| どんな言動か | 「触るな」と腕を払われた |
| どう対応したら、どうなったか | いったん離れて30分後に声をかけたら、入浴できた |
4つ目が大事です。 うまくいったときの記録が、次の対応の手がかりになります。
記録は、犯人探しではありません
これは「再発しやすい条件」を探すための材料です。
2週間ほど続けると、パターンが見えてくることがあります。
- 夕方に多い
- 入浴のときだけ
- 特定の人が関わるときに起きやすい
- 便が出ていない日に多い
そして、この記録は受診のときにそのまま使えます。 医師に伝える材料になります。
手順⑤ 場面と伝え方を変える
原因が特定できなくても、やり方を変えると通ることがあります。
避けたい対応
| 避けたい | なぜか |
|---|---|
| 言い返す、否定する | 興奮が強まりやすい |
| 無理に続ける | 行動を制止されると、興奮が生じやすい場合があります |
| 後ろから急に触れる | 驚いて反射的に手が出ることがある |
| 複数人で取り囲む | 威圧されていると感じやすい |
試す価値のある対応
- いったん離れて、時間をおく(10分後、30分後に再度声をかける)
- 正面から、目線を合わせて話す
- これから何をするかを、動作の前に伝える
- 声をかける人を変える
- 時間帯を変える(夕方がつらいなら午前中に)
- 選んでもらう(「いま入る? ごはんのあと?」)
まずは無理に続けず、いったん距離を取って時間をおく方法を試してみてください。 その場で解決しようとせず、仕切り直す。
時間をおくことで、本人の気持ちが落ち着き、先ほどのやり取りへのこだわりが弱まって、改めて声をかけやすくなる場合があります。
手順⑥ 自分の安全を確保する
ここは、はっきり書きます。
叩かれる、蹴られる、物を投げられる。 そういう状況があります。
そして、それに耐えることが介護ではありません。
- 手の届く場所に、投げられるものを置かない
- 出口をふさぐ位置に立たない
- 一人で対応しない場面を作る(入浴は訪問介護に任せるなど)
- 危険を感じたら、その場を離れる
離れることは、放棄ではありません
身の危険を感じたら、距離を取ってください。 本人の安全が確保されているなら、別の部屋に移って構いません。
そして、この状況を必ず誰かに伝えてください。 ケアマネジャー、主治医、地域包括支援センター。
一人で抱えていると、こちらが追い詰められます。 それがいちばん危険です。
サービスで代われる部分があります
とくに入浴と排泄は、拒否が出やすく、体力も使う場面です。
家族には強く反応する一方で、介護職員など別の人が関わると落ち着くケースもあります。
家族との関係性や、これまでの生活環境、声のかけ方などが、本人の反応に影響する場合があります。
だから、他の人に任せたほうがうまくいく場面があります。 それは負けではありません。
専門の相談先
BPSDへの対応は、ケアや環境調整といった非薬物的な方法が基本とされています。個々の状況に合わせて考える必要があるので、専門職に相談する価値があります。
| 相談先 | 内容 |
|---|---|
| 認知症初期集中支援チーム | 本人や家族を訪問し、医療・介護サービスにつなげる |
| 地域包括支援センター | 無料。サービスの調整も相談できる |
| 認知症疾患医療センター | 専門的な診断と対応の相談 |
| ケアマネジャー | ケアプランの見直し |
| 家族会、認知症カフェ | 同じ経験をした人に話せる |
認知症初期集中支援チームは、認知症の人やその家族を訪問し、医療・介護サービスにつなげる支援を行っています。 利用方法は、お住まいの市区町村や地域包括支援センターに確認してください。
本人が受診を嫌がっている場合でも、まずは家族から地域包括支援センターなどに相談できる場合があります。
受診までの進め方は、認知症の初期サイン|受診までの5つの手順をご覧ください。
いつまで続くのか
渦中にいると、この状態が永遠に続くように感じます。
BPSDの現れ方や経過には個人差があります。 認知症の進行に伴って症状が変化し、暴言や暴力などが目立たなくなる場合もありますが、すべての人に当てはまるわけではありません。
物盗られ妄想についても、経過の中で変化していくことがあるとされています。
症状は一定ではなく、環境や体調、認知症の進行などによって変化することがあります。 いまの状態がずっと同じとは限りません。
まとめ|体の確認から始める
整理します。
身体の不調を確認する
便秘、脱水、痛み、感染症。体調の変化が行動に関係している場合があります。
急な変化ならせん妄を疑う
原因への対応で改善することがあります。医療機関に相談してください。
薬の影響を確認する
始めた時期、変えた時期と重なっていないか。自己判断で止めない。
記録をとる
いつ・何の直後に・どう対応したらどうなったか。受診でも使えます。
場面と伝え方を変える
無理に続けず、時間をおいてみる。
自分の安全を確保する
離れることは放棄ではありません。必ず誰かに伝えてください。
暴言を向けられると、自分が否定されたように感じます。 それは当然の反応です。
ただ、本人が何か困っていることの表れかもしれないという見方があります。
まず、便秘や脱水、痛み、発熱など、体調に変化がないかを確認してみてください。 急な変化がある場合は、医療機関への相談も検討してください。
関連記事
出典・参考
- メディカルノート「認知症の行動・心理症状(BPSD)への対応」(BPSDを「満たされないニーズの表出」と捉える考え方、環境的要因・心理的要因・身体的要因、せん妄との区別、非薬物療法が基本であること)
- 国立長寿医療研究センター「認知症の精神行動症状の薬物治療に関する基本的な対応」(BPSDがコリンエステラーゼ阻害薬の開始以降に出現・悪化した場合の対応)
- 秋田県立リハビリテーション・精神医療センター「BPSDへの対応 ~代表的な症状と病棟での関わり方~」(BPSDは国際老年精神医学会が提唱した用語であること、行動を制止されると興奮が生じやすいこと)
- 厚生労働省「認知症初期集中支援チーム」関連資料
この記事の情報は2026年9月時点のものです。当サイトは医療機関ではなく、記載内容は診断や治療の判断に用いることを目的としていません。症状の現れ方や経過には個人差があります。薬の調整を含め、対応については必ず主治医にご相談ください。

