親と意思疎通ができなくなったら|まず「いつから」を確認する

この記事の要点

  • 「いつから始まったか」で、やるべきことが変わります
  • 急に始まったなら、せん妄の可能性があります。治療で戻ります
  • せん妄の原因は脱水、便秘、尿路感染症、薬など。対応できるものが多い
  • 「いつもの認知症」と思い込むのが、いちばん危険です
  • 聞こえていないだけ、という場合もあります

話しかけても返事が返ってこない。会話がかみ合わない。何を言っているのか分からない。

この状態になると、家族はどう接していいか分からなくなります。そして「認知症が進んだのだろう」と受け止めてしまう。

ただ、その判断は早いかもしれません。 調べてみると、意思疎通が難しくなる原因は複数あり、そのうちいくつかは治療で戻ります。

手順を6つに分けて書きます。最初の1つが、いちばん重要です。

目次

手順① いつから始まったかを確認する

これが、すべての分岐点になります。

始まり方疑うもの
急に始まった
(数時間〜数日で変わった)
せん妄、脳血管の疾患、脱水、感染症、薬の影響
徐々に進んだ
(数ヶ月〜数年)
認知症、難聴、失語症の進行

「いつ始まったか特定できるかどうか」が、判断の手がかりになります。

せん妄は突然発症するため、多くの場合いつ始まったのかをはっきり言えます。一方、認知症はゆっくり進むので、始まりを特定できません。

思い出してほしいこと

  • 入院や手術のあとではないか
  • 薬が変わった、または増えたあとではないか
  • 引っ越しや施設入所など、環境が変わったあとではないか
  • 暑い日が続いていないか(脱水)
  • 便が出ていない日が続いていないか
  • 熱はないか

いずれかに心当たりがあるなら、次の手順へ進んでください。

手順② 急に始まったなら受診する

せん妄は、治療で戻ります。 ここが認知症と決定的に違う点です。

せん妄認知症
発症突然。時期が特定できるゆっくり。特定できない
中心の症状意識の障害、注意力の低下記憶の障害
意識もうろうとする時間があるおおむね清明
1日の変動大きい。夕方から夜に悪化しやすい変動は小さい
経過治療すれば改善する進行していく
期間数時間〜数週間年単位

「数分前はおかしかったのに、いまは普通に話せる」という変動があるなら、せん妄を疑ってください。

せん妄の原因は対応できるものが多い

  • 脱水
  • 便秘
  • 尿路感染症、インフルエンザなどの感染症
  • 薬(とくに睡眠薬や安定剤。処方が変わったとき)
  • 入院、手術
  • 睡眠不足
  • 電解質の異常、腎機能の低下、甲状腺の病気
  • 合わない眼鏡や補聴器(情報が入ってこない状態)

「いつもの認知症」と思い込むのが、いちばん危険です

健康長寿ネットに、こう書かれています。

脱水に陥っていても、いつもの認知症の症状だと思い水分を補給しないでいると症状がさらに進んでしまいます

そして、せん妄は対応が遅れると脳の障害を起こし、死亡することもあるとされています。

すでに認知症の診断がある方でも、せん妄は起こります。むしろ、認知症のある方のほうが起こしやすい。 「認知症だから」で片づけないでください。

受診のとき、こう伝えてください。

「3日前から急に話が通じなくなりました。夕方になると特にひどくなります」

「いつから」「どう変動するか」を伝えるのが要点です。 医師が最初に確認する情報です。

認知症の受診については、認知症の初期サイン|受診までの5つの手順にまとめました。正常圧水頭症など、手術で改善する可能性のある病気もあります。

手順③ 聞こえているかを確認する

意外に多いのが、これです。

「理解してくれない」と感じていても、実際には十分に聞こえていないだけという場合があります。

高齢になると高音域から聞こえにくくなり、音の細かい違いを聞き分ける力も落ちます。 話の一部が抜け落ちて届くため、聞き返したり、内容を取り違えたりします。

確認の方法

  • テレビの音量が以前より大きくなっていないか
  • 静かな場所では通じるのに、賑やかな場所では通じないか
  • 後ろから声をかけると反応しないか
  • 低い声だと通じるが、高い声だと通じないか

当てはまるなら、耳鼻科の受診を検討してください。 耳垢が詰まっているだけ、ということもあります。

補聴器が必要な場合、市区町村によっては購入費の助成制度があります。窓口は高齢者福祉担当課です。

手順④ 伝え方を変える

原因が何であれ、伝え方を変えるだけで通じることがあります。

やってみる価値のある5つ

やること理由
正面から、目を見て話す口の動きが手がかりになる
ゆっくり、はっきり速いと処理が追いつかない
一度に1つのことだけ伝える複数の情報を同時に処理できない
低めの声で高音域が聞き取りにくい
静かな環境で雑音があると聞き分けが難しくなる

3つ目がとくに効きます

こう言うと、混乱します。

「もうすぐ晩御飯だよ。今日は好きなお魚があるからね。その前にお風呂に入ろうか」

3つの情報が一度に入っています。 分けてください。

「お風呂に入ろうか」
(入ったあとで)「晩御飯だよ」
(食卓で)「今日はお魚だよ」

言い方を変えるだけで通じることもある

抽象的な言葉より、具体的な言葉のほうが伝わります。

通じにくい通じやすい
「準備して」「靴を履いて」
「あれ取って」「そこのコップを取って」
「どうしたい?」「お茶にする? それとも水?」

3つ目のように、選択肢を2つに絞ると答えやすくなります。 「何がいい?」と開いて聞くより、はるかに通じます。

手順⑤ 言葉以外の手段を使う

言葉が難しくなっても、伝わる道は残っています。

言葉の理解が落ちても、目から入る情報は残っていることが多い。 だから「言葉だけ」より「言葉+見せる」のほうが確実に伝わります。

実物を見せる

いちばん確実なのが、これです。言葉と一緒に、そのものを見せてください。

伝えたいこと一緒に見せるもの
お風呂に入ろうタオルを持って見せる
ご飯にしよう箸や茶碗を見せる
薬の時間薬とコップを目の前に置く
出かけよう上着や靴を見せる
トイレその方向を指さす

「見せてから言う」より「言いながら見せる」ほうが自然です。 言葉と物が同時に入るので、結びつきやすい。

選ぶときは実物を2つ並べる

ここは特に効きます。

「何を飲む?」と聞いても答えられない方が、お茶と水を両方持って「どっち?」と聞くと指をさせることがあります。

  • 着る服 → 2枚を並べて見せる
  • 飲み物 → 2つを目の前に置く
  • おかず → 皿を近づけて示す

言葉で選ばせるのではなく、目で選んでもらう。 本人が自分で決められる場面が残ります。

「決められること」が残る意味

意思疎通が難しくなると、周りがすべて決めてしまいがちです。

ただ、選ぶ場面が残っていると、本人の様子が変わることがあります。 小さなことでも、自分で決められる。それが伝わるからです。

2つに絞って見せる方法は、その機会を作れます。

身振りを添える

言葉と一緒に、動作をつけてください。

  • 「食べる」→ 口に運ぶ動作
  • 「座って」→ 椅子を軽く叩く、手のひらで示す
  • 「行こう」→ 手招き
  • 「痛い?」→ 自分の体の同じ場所をさする

大げさなくらいでちょうどいい。 恥ずかしさは、伝わることの前では小さな問題です。

紙に書く

聞こえにくさがある場合、書いたほうが早いことがあります。

  • 大きく、太く、短い言葉で
  • ひらがなよりも、慣れた漢字のほうが読める場合がある
  • マジックとスケッチブックを、手の届く場所に置いておく

本人が書いて答えることもできます。 話せなくても書ける、という方は少なくありません。

絵や写真を使う

絵や写真を並べたコミュニケーションボードという道具があります。指をさして意思を伝えるものです。

市販品もありますが、家族が作ったほうが合うことが多い。 その人の生活に合わせられるからです。

  • よく使う言葉を、絵か写真で10〜15枚
  • 実際に使っている物の写真(自分の湯呑み、いつものトイレ)
  • 家族の顔写真(名前を添えて)
  • 痛みの場所を示す人の絵

スマートフォンの写真をそのまま見せる方法もあります。 用意する手間がかからず、その場で撮って使えます。

表情と声の調子

最後に、これがいちばん強い手段かもしれません。

言葉の内容が分からなくても、表情と声の調子は伝わります。

  • 正面から、目を見て
  • 穏やかな表情で
  • 急がない。待つ
  • 手を握る、肩に触れる

焦っていると、それも伝わります。返事を待つ数秒が、通じるかどうかを分けることがあります。

脳血管の疾患のあとで失語症がある場合、言語聴覚士(ST)によるリハビリの対象になります。

失語症は「言葉が出にくい」「理解しにくい」状態で、知的な能力が落ちているわけではありません。 ここを混同すると、本人を傷つけます。

訪問リハビリやデイケアで言語聴覚士のリハビリを受けられる場合があります。ケアマネジャーに聞いてください。

本人の前で「分からない人」として扱わないでください

言葉が出なくても、感情や場の空気は伝わっています。

本人の目の前で、いないかのように話す。子ども扱いする。これは伝わります。 そして自尊心を傷つけ、さらに殻に閉じこもらせます。

返事がなくても、話しかけてください。

手順⑥ 意思決定が必要な場面に備える

ここは制度の話です。

意思疎通が難しくなると、本人の意思確認が必要な手続きが止まります。

できなくなること対応
実家の売却法定後見の申し立てが必要
定期預金の解約難しい場合が多い
任意後見・家族信託の契約判断能力があるうちでないとできない
施設の入所契約後見人が必要になることも

生活費や医療費の引き出しについては、道があります。

2021年2月、全国銀行協会が指針を公表し、医療費や介護費など本人の利益に適合することが明らかな場合、親族の引き出しに応じることがあると整理されました。

「認知症になったら口座が凍結されて何もできない」は正確ではありません。 まず銀行の窓口に相談してください。詳しくは認知症で親の口座は凍結されるのかに書きました。

医療の場面では

手術や治療の同意が必要になったとき、本人の意思確認ができないと、家族が判断を求められます。

そのときに困らないよう、元気なうちに聞いておくことが望ましいのですが、すでに難しい場合もあります。

その場合、「本人ならどう考えるか」を家族で話し合い、医療者と共有するのが基本の考え方です。厚生労働省のガイドラインもその立場をとっています。

話の切り出し方は、介護の話をどう切り出すかにまとめました。まだ話せる状態なら、いまが機会です。

介護する側が消耗したとき

返事が返ってこない相手に、毎日話しかける。これは、想像以上に消耗します。

反応がないと、何のためにやっているのか分からなくなる。そう感じるのは自然なことです。

同居して介護している人の6〜7割が、悩みやストレスを抱えているという調査があります。あなただけではありません。

詳しくは介護でイライラしてしまうときに書きました。変えるべきは感情ではなく、条件のほうです。

相談先は地域包括支援センターとケアマネジャーです。サービスを増やして、離れる時間を作ることも対応の一つです。

まとめ|まず「いつから」を確認する

整理します。

  1. いつから始まったかを確認する

    急なら、せん妄や身体の不調を疑ってください。

  2. 急なら受診する

    せん妄は治療で戻ります。「いつもの認知症」と思い込まないこと。

  3. 聞こえているかを確認する

    理解していないのではなく、聞こえていないだけのことがあります。

  4. 伝え方を変える

    正面から、ゆっくり、一度に1つ。

  5. 言葉以外の手段を使う

    実物を見せる。身振りを添える。選ぶときは2つ並べて指をさしてもらう。

  6. 意思決定が必要な場面に備える

    生活費の引き出しには道があります。まず銀行の窓口へ。

会話が成り立たなくなると、「もう分からないのだろう」と諦めたくなります。

ただ、原因によっては戻ります。そして戻らない場合でも、伝わる道は残っています。

まず確認してほしいのは、それだけです。いつから始まったか。

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出典・参考

  • 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「せん妄」(原因:脱水、尿路感染症、便秘、睡眠不足、電解質異常、腎不全、甲状腺機能異常、合わない眼鏡や補聴器による感覚遮断など)
  • せん妄と認知症の区別(発症の速さ、意識障害の有無、日内変動、可逆性):医療機関・専門機関が公表している一般的な整理による
  • 脱水とせん妄の関係(「いつもの認知症の症状だと思い水分を補給しないでいると症状がさらに進む」):認知症予防に関する解説記事による
  • 一般社団法人全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方」(2021年2月18日)
  • 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」

この記事の情報は2026年9月時点のものです。当サイトは医療機関ではなく、記載内容は診断や治療の判断に用いることを目的としていません。せん妄と認知症は併発することもあり、家族が見分けることは困難です。症状については必ず医師にご相談ください。

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