親に運転をやめてもらうには|返納の手前に選択肢がある

この記事の要点

  • 「返納するか、乗り続けるか」の二択ではありません
  • サポートカー限定免許という中間の選択肢があります
  • 警察に家族が相談できる窓口があります(安全運転相談ダイヤル #8080)
  • 移動手段を用意してから話すと、通りやすくなります
  • 運転経歴証明書は返納から5年以内なら後からでも申請できます

親の運転が危なっかしい。車体に擦り傷が増えた。逆走しかけたと聞いた。

「危ないからやめて」と何度も言っている。でも聞いてくれない。

この問題が難しいのは、車が単なる移動手段ではないからです。本人にとっては自立の証であり、生活そのものです。取り上げられると感じれば、当然反発します。

手順を6つに分けて書きます。「説得する」より前にできることがあります。

目次

手順① 免許更新の時期を確認する

まず、制度側の動きを把握してください。

70歳以上と75歳以上で、更新の手続きが変わります。

年齢更新時に必要なこと
70歳以上高齢者講習
75歳以上高齢者講習+認知機能検査
75歳以上で、過去3年間に一定の違反歴がある上記に加えて運転技能検査(実車試験)

3つ目の運転技能検査は、2022年5月13日から始まりました。

信号無視や速度超過などの違反歴がある方が対象です。不合格の場合は再受検できますが、免許の更新期間内に合格できなければ、免許を更新できません。

更新のタイミングは話す機会になります

認知機能検査や高齢者講習の通知は、有効期間満了日の6ヶ月前ごろに届きます。

このはがきが来たときが、自然に話を切り出せる機会です。「検査あるんだね」から入れます。

更新までまだ時間があるなら、それまでに準備を進められます。

認知機能検査で「認知症のおそれ」と判定されたら

医師の診断を受けることになります。

その結果などに基づき、認知症と診断された場合は、免許の取消しまたは停止の対象となることがあります。

つまり、家族が説得しなくても、制度側で判断される仕組みがあります。

ただし、家族だけで判断するのではなく、必要に応じて医療機関や警察の相談窓口に相談してください。

認知症の受診については、認知症の初期サイン|受診までの5つの手順をご覧ください。治療で改善する可能性のある病気もあります。

手順② 移動手段を先に用意する

ここが、この記事でいちばん重要な部分です。

「やめて」と言うだけでは通じません。 やめた後の生活が見えないからです。

特に地方では、車がないと次のことができなくなります。

  • 買い物
  • 通院
  • 友人に会う
  • 墓参り、法事
  • 趣味の活動

これらの代わりを用意してから話すと、受け止め方が変わります。

代わりになるもの

用途代わりの手段
買い物ネットスーパー、配食サービス、生協の宅配、訪問介護の買い物代行
通院介護タクシー、自治体の移送サービス、家族の送迎
日常の外出コミュニティバス、乗合タクシー、タクシー券の助成
人との交流デイサービス(送迎つき)

自治体独自の移送サービスやタクシー券の助成がある地域があります。 窓口は市区町村の高齢者福祉担当課か地域包括支援センターです。

「高齢者向けの移動支援の制度はありますか? 免許返納後の助成も含めて教えてください」

手順③ サポートカー限定免許を検討する

返納の手前に、選択肢があります。

サポートカー限定免許という制度です。2022年に導入されました。

項目内容
内容安全運転支援装置を備えた車に限定して運転できる免許
対象の装置衝突被害軽減ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置
申請任意。いつでも申請できる
表示免許証の表面に限定の旨が表記される

衝突被害軽減ブレーキや、ペダル踏み間違い時の急加速を抑制する装置などを備えた車に限定されます。安全装置を活用しながら運転を続ける選択肢になります。

「免許を返納するか、今までどおり運転するか」の二択ではなく、安全装置のある車に切り替えるという方法もあります。

いきなり免許を手放すより、この提案のほうが受け入れられやすい場合があります。

車の買い替えという形で話せます

「免許を返して」ではなく、「そろそろ車を替えたら? いまの車は安全装置が付いてるよ」という切り出し方ができます。

本人の自立を否定しない形なので、話し合いが対立になりにくい。

実際に運転を続ける場合も、ペダルの踏み間違いによる事故のリスクは下がります。

手順④ 警察の相談窓口を使う

これはあまり知られていません。

警察に「安全運転相談ダイヤル」があります。 全国共通の短縮ダイヤル「#8080(シャープ・ハレバレ)」です。

  • 加齢や病気による運転への影響について相談できる
  • 本人だけでなく、家族からの相談も受け付けています
  • 運転の継続について、専門的な助言を受けられる
  • 自主返納の手続きについても案内してもらえる

家族が何度言っても聞かない場合、第三者の言葉のほうが届くことがあります。

受付時間は都道府県によって異なります。平日の日中が中心です。

手順⑤ 自主返納の手続きを知る

本人が納得したら、手続きは簡単です。

  1. 窓口へ行く

    運転免許センター、運転免許試験場、または警察署。本人による申請が基本です。

    ただし、都道府県によっては代理人による手続きや、郵送による自主返納が利用できる場合があります。 本人が窓口へ行けない場合は、事前に確認してください。

  2. 申請書を出す

    運転免許証を持参します。自主返納自体に手数料はかかりません。

  3. 運転経歴証明書を申請する

    自主返納と同時に申請できます。 手数料は都道府県によって異なり、愛知県では1,150円です。

後から申請することもできます

「とりあえず返納して、証明書は後で」という場合でも、自主返納から5年以内であれば、後から運転経歴証明書を申請できます。

ただし、自主返納後も本人確認書類として使いたい場合は、返納時にあわせて申請しておくと安心です。

なお、交通違反などで免許が取り消しになった方は、交付を受けられません。

運転経歴証明書でできること

  • 公的な本人確認書類として使える(平成24年4月1日以降に交付されたもの)
  • 金融機関の窓口などで使える
  • 自治体や事業者の支援を受けられる(後述)

「免許証がなくなると身分証明ができない」という不安には、これで答えられます。 有効期限もありません。

返納すると、再取得は最初からやり直しです

自主返納によって免許が取り消されると、再び取得する場合は適性試験・学科試験・技能試験をすべて受け直す必要があります。 一部免除の特例はありません。

「やっぱり必要だった」となっても、簡単には戻せません。本人が納得したうえで進めてください。

手順⑥ 返納後の支援を調べる

返納すると受けられる支援があります。これを先に調べておくと、話しやすくなります。

  • バス・タクシーの運賃割引
  • タクシー券の交付
  • 電動アシスト自転車やシニアカーの購入補助
  • 商店や飲食店の割引
  • 美術館などの入館料割引

内容は自治体や事業者によってまったく違います。

一般社団法人全日本指定自動車教習所協会が運営する「高齢運転者支援サイト」で、都道府県ごとの支援内容を確認できます。

「免許を返したら、バスが半額になるみたい。タクシー券ももらえるって」

具体的な特典があると、返納が「失うこと」だけではなくなります。

話すときに避けたいこと

正直に書きます。やり方を間違えると、かえって頑なになります。

避けたい言い方通りやすい言い方
「もう年なんだから」「私が心配で落ち着かないんだ」
「危ないから返して」「安全装置のついた車に替えない?」
「事故を起こしたらどうするの」「通院は私が送るよ。買い物は宅配にしてみない?」
大勢の前で言う1対1で、落ち着いた場面で

主語を自分にすると、角が立ちません。 「あなたが危ない」ではなく「私が心配」。

そして、一度で決着させようとしないこと。 何度かに分けて話すほうが、結果的に早く進みます。

誰が言うかも大事です

子どもの言うことは聞かなくても、孫の言葉や、かかりつけ医の言葉なら届くことがあります。

医師から「そろそろ運転はやめましょう」と言われると、受け入れやすい。受診のときに、あらかじめ相談しておく方法があります。

ケアマネジャーから話してもらうのも一つです。

どうしても止まらない場合

説得しても、制度でも止まらない場合があります。

無断で処分したり、使えない状態にするのは避けてください

本人に無断で車を処分したり、車を使えない状態にしたりすることは、家族との信頼関係を壊す可能性があります。

車は本人の財産です。そして、そこから先の介護が難しくなります。

どうしても運転をやめてもらえない場合でも、まずは安全運転相談ダイヤル「#8080」や、かかりつけ医、地域包括支援センターなどに相談することをおすすめします。

家族だけで抱え込まず、第三者を交えて安全な方法を考えていってください。

事故が起きたときの備え

運転が続く場合、保険の内容だけは確認しておいてください。

  • 任意保険に加入しているか
  • 対人・対物の補償が無制限になっているか
  • 運転者の年齢条件が適切か
  • 個人賠償責任保険に加入しているか

交通事故が起きた場合、基本的には運転者本人が責任を負うことになります。

ただし、事故の状況や家族の関与などによっては、運転者本人だけでなく、家族などが法的な責任を問われるケースもあります。

保険の確認は、本人と家族の両方を守ることにつながります。

まとめ|二択にしない

整理します。

  1. 免許更新の時期を確認する

    75歳以上は認知機能検査。違反歴があれば実車試験も。

  2. 移動手段を先に用意する

    「やめた後の生活」が見えないと、話は進みません。

  3. サポートカー限定免許を検討する

    返納の手前の選択肢。「車を替えない?」と話せます。

  4. #8080に相談する

    家族からも相談できます。第三者の言葉が届くことがあります。

  5. 返納するなら経歴証明書も

    5年以内なら後からでも申請できます。手数料は都道府県により異なります。

  6. 返納後の支援を調べておく

    バスやタクシーの割引、タクシー券。先に調べて示す。

「返納するか、乗り続けるか」の二択にすると、対立になります。

サポートカー限定免許があり、移動の代わりがあり、返納後の支援がある。選択肢を並べてから話すほうが、結果的に早く進みます。

そして、親が納得しないまま取り上げると、その後の関係に残ります。 介護はこれから続きます。急がば回れ、という場面だと思います。

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出典・参考

  • 警察庁「運転免許証の自主返納について」(運転経歴証明書の交付、自主返納後5年以上経過した方は交付を受けられない)
  • 警視庁「運転免許証の自主返納・運転経歴証明書について」(自主返納による取消し後の再取得には特例がないこと、サポートカー限定条件の運転免許)
  • 道路交通法(70歳以上の高齢者講習、75歳以上の認知機能検査、運転技能検査/2022年5月13日施行)
  • 警察庁「安全運転相談窓口(#8080)」(本人・家族からの相談に対応)
  • 一般社団法人全日本指定自動車教習所協会「高齢運転者支援サイト」(都道府県ごとの自主返納支援)
  • 運転経歴証明書の交付手数料は都道府県により異なります(愛知県:1,150円)。代理人による手続きや郵送での自主返納の可否も都道府県により異なります

この記事の情報は2026年9月時点のものです。運転技能検査の対象となる違反の範囲、自主返納の手続き、返納後の支援内容は、都道府県や市区町村によって異なります。実際の手続きは、お住まいの都道府県警察または運転免許センターにご確認ください。

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