兄弟が介護に協力しないとき|まず負担を数字にする

この記事の要点

  • 介護の負担は、外からは見えません。だから伝わっていません
  • 「大変」では動きません。 時間と回数の数字にしてください
  • 曖昧な依頼は断られます。 日時と所要時間を指定してください
  • 協力の形はお金・手続き・物理的な介護の3つ。得意な部分を任せる
  • それでも動かない相手はいます。 期待を下げる判断も必要です

自分ばかりが介護している。きょうだいは連絡もよこさない。たまに来ては、口だけ出していく。

「なんで自分だけ」という気持ちは、積もると消えません。

この記事では、「話し合えば分かり合える」とは書きません。 通じない相手には通じないからです。

代わりに、動く可能性を上げる方法と、それでも動かないときの整理の仕方を書きます。手順は6つです。

目次

なぜ1人に集中するのか

先に、統計の話をします。あなたの家だけの問題ではありません。

厚生労働省の国民生活基礎調査では、複数の家族が関わっている場合でも、「主な介護者」として特定の1人が担い手になっているケースが多く報告されています。

主な介護者2022年
同居の家族等45.9%
 うち配偶者22.9%
 うち子16.2%
 うち子の配偶者5.4%
別居の家族等11.8%
事業者15.7%

そして、もう1つ変化があります。

「子の配偶者」が主な介護者である割合は、2001年の22.5%から2022年は5.4%へ大きく下がりました。

「長男の妻が担う」割合が大きく下がっています

かつては、長男の妻が介護を担う形が多くありました。その割合が4分の1以下になっています。

一方で、「子」が主な介護者となる割合は、2001年以降おおむね20%前後で安定して推移しています。

役割があらかじめ決まっていた時代と比べて、「誰が担うのか」を家族で決める必要が出てきていると言えます。

あなたが直面しているのは、社会全体で起きている変化の一部です。

なお、同居の主な介護者は女性が68.9%です。姉妹に偏る傾向は、いまも残っています。

手順① 負担を数字にする

ここが出発点です。

介護の負担は、外からは見えません。 遠方に住んでいるきょうだいには、何がどれだけ起きているか分からない。

だから「大変なんだよ」と言っても、動きません。薄情だからではなく、量が伝わっていないからです。

書き出すのは3つ

項目書き方の例
頻度週2回、実家に行っている
時間往復2時間+滞在3時間=1回5時間
内容買い物、掃除、薬の確認、ケアマネとの連絡

これを月単位にします。週2回×5時間×4週=月40時間。

さらに、こういう項目も足してください。

  • 有給を何日使ったか(通院の付き添い、認定調査の立ち会い)
  • ケアマネジャーとの連絡回数(月に何回か)
  • 夜間に呼ばれた回数
  • 自分が払った金額(立て替え分、交通費)

「先月は実家に8回行って、合計40時間。有給を3日使った。交通費が1万2千円」

この形にすると、相手が受け止め方を変えることがあります。 「大変」は受け取り方に幅がありますが、数字は共有できるからです。

手順② 依頼を具体的にする

次が、実際に動いてもらう段階です。

曖昧な依頼は、ほぼ確実に断られます。

断られる言い方答えざるを得ない言い方
「たまには手伝ってよ」「来月の第2土曜、10時から15時、病院の付き添いをお願いできる?」
「少しは協力して」「おむつ代を月5,000円、口座に振り込んでもらえる?」
「そっちも考えてよ」「施設の資料請求を3件、来週までにお願いできる?」

「たまには」「少しは」は、いつ何をすればいいか分かりません。 だから相手は判断を保留し、そのまま流れます。

日時と所要時間が決まっていれば、相手は「できる/できない」を判断しやすくなります。

断られても、それは前進です

「その日は無理」と言われたら、次を聞いてください。

「じゃあ、いつなら大丈夫?」

1回目で断られても、2回目で日程が出てくることがあります。 具体的に頼むほど、返事を得やすくなります。

逆に、日時を示しても答えが返ってこない場合、その相手をどこまで当てにできるかが見えてきます。 それも判断の材料になります。

手順③ 協力の形を3つに分ける

「協力」といっても、できることは人によって違います。

形内容向いている人
お金費用の分担、立替分の精算遠方、時間が取れない
手続き・調べもの施設の資料請求、制度の確認、書類の作成遠方でもできる
物理的な介護通院の付き添い、実家への訪問、泊まり近隣に住んでいる

2つ目が見落とされがちです。

施設を探す、制度を調べる、書類を書く。これらは遠方に住んでいてもできます。 そして、かなりの時間を食う作業です。

「近くにいる私が通院に行くから、施設の情報集めをお願いできる?」

役割を分ければ、「何もしていない」状態から抜けられます。

費用の分担については、介護の費用は誰が払うのかにまとめました。親の資産を確認し、制度で減らし、不足額を出してから分担を話すという順番です。

手順④ 記録を残す

やり取りは、形に残してください。

残すもの

  • いつ、何を頼んだか
  • どう返事があったか(断られた場合も含む)
  • 実際にかかった費用(領収書)
  • 自分が関わった回数と時間

メッセージアプリのやり取りが、そのまま記録になります。 電話で頼んだ場合も、あとから「さっきの件、まとめておくね」と送っておく。

記録が効く3つの場面

場面効き方
話し合いのとき「言った/言わない」がなくなる
相続のとき寄与分を主張する際の資料の一つになり得る
扶養請求調停のとき裁判所に示す資料になる

寄与分は、期待しすぎないでください

相続人が被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした場合、相続分を増やす「寄与分」という制度があります(民法904条の2)。

ただし、介護をしたからといって、当然に寄与分が認められるわけではありません。 通常期待される範囲の扶養や介護を超える「特別の寄与」にあたるかどうかなど、個別の事情が問題になります。

介護の記録は、寄与分を主張する際の資料の一つになり得ます。 ただ、それだけで認められるものではありません。

確実にしたいなら、親が元気なうちに遺言書を作ってもらうほうが早い。判断に迷う場合は、弁護士にご相談ください。

手順⑤ 期待を下げる判断

ここは、書くかどうか迷った部分です。

それでも動かない相手はいます。

理由はさまざまです。親との関係が悪い。自分の生活で手一杯。そもそも介護を自分事だと思っていない。どれも、こちらが変えられるものではありません。

「協力させる」ことにエネルギーを使わない

動かない相手を動かそうとすると、そのやり取り自体が新しい負担になります。

連絡して、断られて、腹を立てて、また連絡する。この往復に使う時間と感情は、かなりのものです。

ある時点で、「この人は戦力に入れない」と決めるほうが、結果的に楽になることがあります。

諦めるのではなく、計算に入れないという判断です。

代わりに増やすもの

きょうだいの代わりに使えるものがあります。

人に頼めないなら、制度に頼る。 そのほうが確実で、感情の消耗もありません。

ケアマネジャーに、きょうだいの協力が得られない状況を正確に伝えてください。 それを前提にケアプランを組んでもらえます。

「兄は遠方で、協力は期待できません。私一人で回す前提でプランを組んでいただけますか?」

アセスメントの項目には「家族等の状況」が含まれています。伝えるのは制度上の前提です。

手順⑥ 制度的な手段を知っておく

最後に、法的な選択肢です。

費用の分担について折り合わない場合、家庭裁判所の「扶養請求調停」があります。

項目内容
申立先相手方(きょうだい)の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所
費用収入印紙1,200円+連絡用の郵便切手
※郵便料は裁判所ごとに異なります
進み方調停委員が双方の事情を聞き、話し合いを進める
※期日の間隔は事件の状況などによって異なります
確認されること双方の収入、介護の実態

申立ての費用自体は数千円程度です。 ただし、これは最後の手段です。

扱えるのは扶養料や扶養の方法です

扶養請求調停は、介護そのものを誰かに強制的に分担させるための手続ではありません。 扶養料の支払いや扶養の方法などについて話し合う手続です。

そして、調停を起こすと、きょうだいの関係には傷が残ります。

それでも、こういう手段があると知っているだけで、話し合いに臨む姿勢が変わることがあります。

申立ての方法や必要な費用は、申立先の家庭裁判所にご確認ください。

扶養義務の性質については、介護の費用は誰が払うのかに詳しく書きました。子が親に負うのは「生活扶助義務」で、自分の生活を犠牲にしない範囲です。

優先すべきは自分が倒れないこと

最後に、これだけは書いておきます。

厚生労働省の2022年国民生活基礎調査では、同居の主な介護者のうち6割前後が悩みやストレスが「ある」と回答しています。そして、その原因として最も多いのが「家族の病気や介護」でした。

きょうだいが協力しないことへの怒りは正当です。ただ、その怒りを抱え続けると、消耗するのは自分です。

詳しくは介護でイライラしてしまうときに書きました。変えるべきは感情ではなく、条件のほうです。

相談先は地域包括支援センターとケアマネジャーです。家族間の調整について相談しても構いません。 よくある相談です。

まとめ|数字にして日時を指定する

整理します。

  1. 負担を数字にする

    「大変」は意見、数字は事実。頻度・時間・費用を書き出す。

  2. 依頼を具体的にする

    日時と所要時間を指定する。「たまには」では動きません。

  3. 協力の形を3つに分ける

    お金・手続き・物理的な介護。遠方なら手続きを任せる。

  4. 記録を残す

    メッセージアプリで足ります。相続と調停で効きます。

  5. 動かない相手は計算に入れない

    諦めるのではなく、当てにしない。制度で埋める。

  6. 手段があることを知っておく

    扶養請求調停は数千円。ただし最後の手段。

「なんで自分だけ」という気持ちは、消えないと思います。消さなくていい。

ただ、その気持ちを抱えたまま、きょうだいを動かそうとし続けると、疲れるのは自分です。

まず負担を数字にしてください。それでも動かなければ、制度で埋める。 そのほうが確実です。

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出典・参考

  • 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」(主な介護者:同居の家族等45.9%、うち配偶者22.9%・子16.2%・子の配偶者5.4%/別居の家族等11.8%/事業者15.7%/同居の主な介護者の性別は女性68.9%/同居の主な介護者の悩みやストレスの有無と原因)
  • 国立社会保障・人口問題研究所「人口問題研究」80巻1号(子の配偶者の割合は2001年22.5%から2022年5.4%へ低下)
  • 民法 第877条(扶養義務者)/第904条の2(寄与分)
  • 裁判所「扶養請求調停」(申立費用:収入印紙1,200円分(扶養権利者1人につき)、連絡用の郵便切手。郵便料は裁判所ごとに異なる)
  • 厚生労働省「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(老企第29号/「家族等の状況」を含む23項目)

この記事の情報は2026年9月時点のものです。当サイトは法律事務所ではなく、記載内容は個別の法的判断を目的としたものではありません。扶養義務の範囲や調停の手続きについては、弁護士または家庭裁判所にご相談ください。

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