この記事の要点
- 介護費用は、まず親の財産と収入でまかなうのが原則です
- 子が負う義務は「生活扶助義務」。自分の生活を犠牲にしてまで負うものではありません
- 長男が優先という規定はありません。誰がどれだけ負担するかに、法律上の順位はない
- 子の配偶者(嫁・婿)に扶養義務はありません
- 金額が見えないまま話すと揉めます。不足額を数字で出してから話してください
親の介護が始まると、遅かれ早かれこの話になります。誰がお金を出すのか。
そして、多くの場合これは、お金だけの話では終わりません。「近くに住んでいるほうが全部やっている」「遠方だから何もできない」「長男なんだから」。 感情が絡んで、話が進まなくなります。
調べてみると、法律上の考え方は思ったよりはっきりしていました。そして、揉める家庭には共通した順番の間違いがありました。
手順を6つに分けて書きます。最初の3つが済むまで、負担割合の話はしないほうがいいというのが結論です。
その前に|法律上どうなっているか
民法877条に、こうあります。
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある
子は親に対して扶養義務を負います。ただし、この「扶養義務」には2種類あり、性質がまったく違います。
| 生活保持義務 | 生活扶助義務 | |
|---|---|---|
| 誰が誰に | 夫婦間/親から未成熟の子へ | 子から親へ/兄弟姉妹間 |
| 程度 | 相手に自分と同じ水準の生活をさせる | 自分の生活を犠牲にしない範囲で援助する |
| たとえ | 最後の一片の肉まで分け与える義務 | 自分の腹を満たして、なお余ったものを分ける義務 |
親の介護費用の負担は、後者です。
つまり、自分の生活が成り立たなくなるほどの負担を、法律は求めていません。子どもの学費を削って、自分の老後資金を取り崩してまで親の介護費用を出す義務は、法律上ありません。
ここを知らないと苦しくなります
「親のことなのだから、なんとかしなければ」と思い詰めて、自分の生活を削る方がいます。それは義務ではありません。
そして、負担して生活が破綻すると、結果的に介護も続けられなくなります。自分の生活を守ることは、介護を続ける条件でもあります。
あわせて押さえておきたい3つ
- 法律が求めているのは経済的な支援であって、身体的な介護ではありません。 直接介護しなくても、費用を出すことで義務は果たせます
- 長男が優先という規定はありません。 民法878条は「当事者間の協議で決める」としています。生まれた順は関係ありません
- 子の配偶者(嫁・婿)に扶養義務はありません。 義理の親の介護をする法的な義務は負っていません
手順① まず親の財産と収入を確認する
原則は「親のお金で親の介護をする」です。 ここが出発点になります。
子が負担するのは、親の財産では足りない場合に限られます。それなのに、親の資産を確認しないまま「兄弟でどう分けるか」を話し始める家庭が多い。 これが最初の間違いです。
確認するのは4つです。
| 項目 | 確認する場所 |
|---|---|
| 年金 | 年金振込通知書、通帳の入金記録 |
| 預貯金 | 通帳、キャッシュカード(口座がいくつあるか) |
| 保険 | 保険証券、口座からの引き落とし記録 |
| 不動産 | 固定資産税の納税通知書 |
本人の判断能力があるうちに確認してください。 認知症が進むと、家族でも口座の情報を得られなくなります。この点は認知症で親の口座は凍結されるのかに書きました。
切り出しにくい話ですが、こういう言い方があります。
「これから何かあったとき、私が支払いで困らないように、どこに何があるか教えておいてほしい」
相続の話ではなく、支払いの話として切り出すと、通りやすくなります。
手順② 使える制度で自己負担を下げる
親の収入と貯蓄が見えたら、次は制度で減らせる分を確認します。
負担額は、制度を使うかどうかで大きく変わります。
- 負担割合(1割・2割・3割)。判定は2つの条件で決まります
- 高額介護サービス費。月の自己負担が上限を超えた分が戻ります
- 負担限度額認定(補足給付)。施設の食費と居住費に上限が設定されます。申請しないと適用されません
- 高額医療・高額介護合算療養費。年間の医療費と介護費を合算して上限を超えた分が戻ります
詳しくは高額介護サービス費と補足給付で、いくら戻るかにまとめました。
特に負担限度額認定は、住民税非課税世帯なら月に数万円変わります。 ここを飛ばして「足りない」と判断すると、必要以上に子が負担することになります。
手順③ 不足額を数字で出す
ここまでで、こう計算できます。
親の月収(年金など) - 介護と生活にかかる月額 = 毎月の過不足
そして、貯蓄が何か月分あるかを出します。
この数字が出るまで、負担割合の話をしないでください。
金額が見えないまま話すから揉めます
「これから、けっこうかかると思う」
「そっちは近いんだから、もっとやってよ」
この状態で始まる話し合いは、必ず感情論になります。金額が曖昧だと、相手は「どれだけ請求されるかわからない」と身構えます。
逆に「毎月3万円足りない。貯蓄はあと2年分」と数字が出れば、話す内容が具体的になります。
費用の全体像は、介護にかかるお金の総額にまとめています。在宅と施設で総額が2.4倍違います。
手順④ お金と労力を分けて話す
不足額が出たら、ようやく分担の話です。
ここで重要なのが、「お金」と「労力」を分けて考えることです。
| 負担の種類 | 内容 |
|---|---|
| 経済的負担 | 不足分の費用、施設費、おむつ代など |
| 労力の負担 | 通院の付き添い、ケアマネとの連絡、手続き、日々の様子見 |
近くに住む子が労力を、遠方の子が費用を多めに、という分け方が一般的です。ただし、労力の負担は目に見えにくい。
ここが揉める最大の原因です。遠方の子は「お金を出しているのに文句を言われる」と感じ、近くの子は「毎週通っている大変さがわかっていない」と感じる。
労力を時間で示す
「大変」ではなく、時間で伝えてください。
- 週2回、往復2時間かけて様子を見に行っている
- 月に平日3日、通院の付き添いで有給を使っている
- ケアマネとの連絡が月に5〜6回
数字にすると、相手にも量が伝わります。 そして自分でも、抱えている量を把握できます。
手順⑤ 記録を残す
話し合いで決まったことは、紙かメッセージで残してください。 契約書のような形式は要りません。
- 誰がいくら、いつまでに、どう払うか
- 誰が何を担当するか
- いつ見直すか(半年後、状態が変わったとき)
そして、実際の支出も記録しておいてください。
親のお金と自分のお金を混ぜないこと
親の預金から支払う場合、何にいくら使ったかを記録し、領収書を保管してください。
これは相続のときに問題になります。「勝手に使い込んだのではないか」と疑われるケースが実際にあります。記録があれば説明できます。
親の口座から立て替えた分を自分の口座に戻す場合も、記録を残してください。
介護のために使った費用は、相続のときに考慮される可能性があります。 「寄与分」といって、介護をした子の相続分が増えることがあります。
ただし、認められるのは簡単ではありません。 無償で介護し、それによって親の財産の維持や増加に貢献したことを証明する必要があります。期待しすぎないほうがいいというのが実態です。
確実にしたいなら、親が元気なうちに遺言書を作ってもらう方法があります。
手順⑥ 折り合わないときは扶養請求調停
話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の手続きがあります。
扶養請求調停といいます。裁判ではなく、調停委員を交えた話し合いの場です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 相手方(兄弟)の住所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙1,200円+郵便切手960円程度 |
| 進み方 | 月1回程度のペースで、調停委員が双方の話を聞く |
| 確認されること | 双方の収入(源泉徴収票、所得証明書)、介護の実態 |
調停委員が「月〇万円の負担ではどうか」といった案を示し、双方が納得すれば成立します。合意に至らない場合は「審判」に移り、裁判所が判断します。
費用は数千円で済みます。 ただ、これは最後の手段です。調停を起こした時点で、兄弟関係にはほぼ確実に傷が残ります。
それでも、一人で抱え込んで生活が破綻するよりは選択肢として知っておく価値があります。「制度としてこういう手段がある」と知っているだけで、話し合いに臨む姿勢が変わることもあります。
まとめ|順番を守ることが最大の対策
整理します。
親の財産と収入を確認する
原則は親のお金。判断能力があるうちに。
使える制度で自己負担を下げる
負担限度額認定は申請しないと適用されません。
不足額を数字で出す
ここまで済むまで、負担割合の話をしない。
お金と労力を分けて話す
労力は「大変」ではなく時間で示す。
記録を残す
決めたことと、実際の支出。相続のときに効きます。
折り合わなければ扶養請求調停
数千円で申し立てられます。ただし最後の手段。
揉める家庭の多くは、手順①〜③を飛ばして④から始めています。 金額がわからないまま「どう分けるか」を話すから、感情の話になる。
そして、最後にもう一度書いておきます。
親の介護費用を負担する義務は、自分の生活を犠牲にしてまで負うものではありません。 法律上、そうなっています。
仕事を辞めて介護に専念する前に、確認したい5つの制度もご覧ください。働きながら続けられる形を探すほうが、結果的に長く支えられます。
関連記事
出典・参考
- 民法 第877条(扶養義務者)、第878条(扶養の順位)、第879条(扶養の程度又は方法)、第752条(夫婦の同居・協力・扶助義務)
- 生活保持義務・生活扶助義務の区別に関する解釈(法律実務における通説的な整理)
- 裁判所「扶養請求調停」(申立費用:収入印紙1,200円、連絡用の郵便切手)
- 民法 第904条の2(寄与分)
この記事の情報は2026年8月時点のものです。当サイトは法律事務所ではなく、記載内容は個別の法的判断を目的としたものではありません。実際の扶養義務の範囲や調停の手続きについては、弁護士または家庭裁判所にご相談ください。

