この記事の要点
- 都内の特養では、毎日およそ2,000床が空いています(年間の延べ空床73万床から算出)
- 年間の退所率は28.9%。定員の3割近くが1年で入れ替わっています
- 待機者43,496人という数字には重複申込が含まれています。実数の推計は約23,296人
- 退所から次の入所契約までは中央値20日。空いてから決まるまでが早い
- それでも入りにくい人はいます。医療的なケアが必要な方です
「東京の特養は何年待ち」という話を、一度は聞いたことがあると思います。私もそう思っていました。
ところが、東京都社会福祉協議会が都内323の特養に行った調査を読んで、認識が変わりました。実態は、言われているものとかなり違います。
結論から書くと、特養は「入れない施設」から「早期に入所可能な施設」に変わりつつあります。 調査報告書にも、そのままの表現で書かれています。
ただし、誰でも入れるという話ではありません。入りやすくなった人と、依然として入りにくい人がいます。 その線引きが、この記事の本題です。
驚いた事①:都内で毎日2,000床が空いている
調査で報告された、令和5年度の都内特養の年間延べ空床数は731,452床です。
これはベッド1床が1日空いた状態を1として数えた数字なので、365で割ると1日あたりの平均が出ます。
731,452 ÷ 365 = 1日あたり約2,004床
都内のどこかで、毎日およそ2,000床が空いています。 平均稼働率は93.3%。満床ではありません。
1施設あたりに直すと、月平均193床分の空きが出ている計算になります。
驚いた事②:1年で定員の3割が入れ替わる
もう1つ、意外だったのが退所率です。
| 年度 | 特養定員総数 | 年間の退所人数 | 退所率 |
|---|---|---|---|
| 令和3年度 | 28,564人 | 7,894人 | 27.6% |
| 令和4年度 | 28,612人 | 7,588人 | 26.5% |
| 令和5年度 | 28,898人 | 8,357人 | 28.9% |
※調査に回答した施設の合計です。都内すべての特養ではありません。
1年間で、定員の3割近くが退所しています。 退所した数だけ、新しく入れる枠が生まれます。
退所の理由も報告されています。
- 看取り(施設内での死亡)58.1%
- 医療機関へ転院(死亡を含む)37.7%
- 在宅復帰 0.8%
入所した方の95.8%は、看取りか転院で退所しています。特養は終の住処として機能しているということでもあります。
驚いた事③:待機者数の半分近くは重複
ここが、この記事でいちばん重要な部分です。
調査では、要介護3以上の待機者が都内で43,496人と報告されています。この数字だけ見ると、絶望的に思えます。
ところが、報告書には注釈があります。この集計は名寄せをしていません。 同じ人が複数の施設に申し込んでいれば、その人数だけ重複してカウントされます。
実際、待機者の数え方を施設に聞いた結果がこうでした。
| カウント方法 | 割合 |
|---|---|
| 申込者の人数をそのまま待機者としている | 62.8% |
| 入所判定基準をクリアした「入所可能な方」だけを数えている | 34.6% |
| その他 | 2.6% |
そして、1人が申し込める施設数に制限があるかを聞いたところ、制限を設けている施設の中央値は3施設でした。
報告書は、これらをもとに実待機者数を推計しています。
重複を除いた実待機者の推計 = 約23,296人
見かけの43,496人に対して、実数はその半分程度です。 差の約2万人は、同じ人が別の施設にも申し込んでいる分ということになります。
この推計値は、東京都が別に実施した調査での要介護3以上の申込者21,495人とも、ほぼ同じ水準でした。
つまり、待機者数は「実際に並んでいる人数」ではありません
複数申し込むのは、むしろ推奨される行動です。それが結果として、待機者数を膨らませています。 ニュースで見る数字を、そのまま行列の長さと考えないでください。
驚いた事④:空いてから決まるまでが早い
退所から次の方の入所契約までにかかった日数が、調査に出ています。
| 地域 | 中央値 |
|---|---|
| 23区 | 25日 |
| 多摩東部 | 23日 |
| 多摩西部 | 14日 |
| 全体 | 20日 |
ベッドが空いてから、平均20日で次の方が決まっています。 何年も順番を待って動かない、という状態ではありません。
さらに、入所の案内をしたのに断られた人数も報告されています。1施設あたり中央値で5人。 理由として挙がっているのは「まだ大丈夫」というお守り的な申し込みや、「他の施設に入れた」というものです。
では、なぜ空いているのか
空床の理由も調査されています。3つに分かれていました。
1. 入所までの手続きに時間がかかる
- 家族(代理人)との調整に時間がかかる 78.0%
- 入所元(病院・老健など)による入所調整が増えた 58.9%
- 相談員の業務量増加で対応が遅れた 39.8%
いちばん多いのが、家族との調整です。 連絡がつかない、決められない、返事が遅れる。ここで日数が過ぎていきます。
2. 待機者そのものが減っている
- 近隣で特養が増えた 67.3%
- 近隣で有料老人ホームが増えた 50.6%
- 近隣でサービス付き高齢者向け住宅が増えた 33.3%
施設が増えた結果、需要が分散しています。
3. 職員が足りず、受け入れられない
- 募集をかけても人が来ず、新規採用ができなかった 81.8%
- 採用しても定着せず、退職者が多く出た 36.4%
- 新規開設の施設が増え、職員の取り合いが起きた 25.0%
ベッドは空いているのに、見る人がいない
空床の理由を「施設の体制や職員配置」と答えた施設のうち、81.8%が「募集をかけても人が来なかった」と回答しています。建物と設備はあるのに、職員がいないから受け入れられない。
この問題は、施設が増えるほど深刻になります。同じ調査で、待機者が減った理由の1位が「近隣で特養が増えたこと」(67.3%)でした。 施設が増え、職員の取り合いが起きています。
今は入りやすくなっていても、この状態が続く保証はありません。 「もう少し様子を見てから」と先送りせず、申し込みだけは早めに出しておくことを勧めます。
それでも入りにくい人がいる
ここは正直に書きます。全員が入りやすくなったわけではありません。
「入所待機者の中で、入所に至らない理由」を聞いた結果です。
| 入所に至らない理由 | 回答した施設の割合 |
|---|---|
| 医療依存度の高い方(喀痰吸引、気管切開、在宅酸素など) | 92.3% |
| 身元引受人等の事務手続きができない方 | 48.0% |
| 精神疾患のある方 | 33.7% |
| 低所得でユニット型に入所できない方 | 29.1% |
| 生活保護受給者 | 21.4% |
医療的なケアが必要な方が、圧倒的に入りにくい。 特養は生活の場であって医療機関ではないため、対応できる範囲に限りがあります。
そして、申込者の傾向としては、まさにその層が増えています。
- 医療ニーズの高い方の申込が増えた(増加+やや増加)85.8%
- 身寄りや身元引受人が不在の方 70.0%
- 低所得の方 55.8%
入りやすくなった全体傾向の裏で、入りにくい層が積み残されています。 待機者名簿に長く残り続けているのは、この方たちだと報告書も指摘しています。
親に医療的なケアがある場合
喀痰吸引、胃ろう、在宅酸素、インスリン注射などがある場合は、特養だけを待つのは現実的ではありません。介護医療院、医療対応可能な有料老人ホーム、療養病床も並行して検討してください。
サ高住を探す場合、国のシステムで医療対応を「実績あり」で絞り込めます。
この調査から言える、4つの打ち手
複数の施設に申し込む
調査では、申し込み施設数に制限なしとした施設が246。制限がある場合も中央値で3施設です。1か所だけに出す理由はありません。
23区は自治体が申込窓口・名簿管理をしていることが多く、多摩地域は各施設が窓口です。お住まいの区市町村に、まず確認してください。
連絡がつく体制を作っておく
空床の最大の理由が「家族との調整に時間がかかる」78.0%でした。案内の電話に出られないと、次の人に回ります。
日中に連絡がつく番号を伝えておく。決定権のある家族を決めておく。これだけで確率が変わります。
ユニット型も候補に入れる
費用の差を理由に多床室だけを希望すると、選択肢が狭まります。所得段階によっては、差額が月1.35万円まで縮みます。 段階別の差額を確認してみてください。
待っている間の受け皿を決めておく
平均20日で次が決まるとはいえ、自分の順番がいつ来るかは分かりません。有料老人ホームやショートステイの併用も含めて、待機中の生活を組み立ててください。
まとめ|数字の読み方を変える
調査報告書の結論を、そのまま引くとこうなります。入所できない特養から、早期に入所可能な特養へと変化している。
ただし、これは全体の話です。医療的なケアが必要な方にとっては、依然として厳しい。 どちらか一方だけを伝えると、実態を見誤ります。
整理します。
- 都内で毎日約2,000床が空いている
- 年間の退所率28.9%。定員の3割が入れ替わる
- 待機者43,496人のうち、実数の推計は約23,296人
- 空いてから決まるまで中央値20日
- ただし医療依存度が高い方は、92.3%の施設が「入所に至らない理由」に挙げている
「何年も待つらしい」と諦めて申し込まないのは、もったいない。まず申し込んでください。 申し込みは点数で評価されます。仕組みは別記事にまとめました。
申し込みの窓口や必要書類は区市町村ごとに違います。地域包括支援センターか、担当のケアマネジャーに聞くのが確実です。
関連記事
出典・参考
- 東京都社会福祉協議会 東京都高齢者福祉施設協議会 制度検討委員会「令和6年度 東京都内特別養護老人ホーム入所(居)待機者に関する実態調査」(2024年12月公表/調査期間2024年7月/都内特養519施設を対象、323施設が回答・回収率62.2%)
- 同調査より:年間延べ空床数731,452床、平均稼働率93.3%、退所率28.9%、退所から入所契約までの中央値20日、要介護3以上の待機者43,496人、実待機者数の推計約23,296人、入所に至らない理由「医療依存度の高い方」92.3%
- 東京都「特別養護老人ホームへの入所申込等に関する調査」(要介護3以上の申込者21,495人)
この記事の情報は2026年8月時点のものです。数値は東京都高齢者福祉施設協議会の会員施設への調査結果であり、都内すべての特養を網羅したものではありません。1日あたりの空床数は、報告された年間延べ空床数を365で除した概算です。個別の施設の空き状況や申込方法は、各施設または区市町村にご確認ください。

