親が施設に入ったら実家はどうする|売る前に確認する6つの順番

この記事の要点

  • 「親が生きている間に売るか」「相続後に売るか」で、使える税の特例が変わります
  • 生前に売る場合、居住用財産の特例には住まなくなってからの期限があります
  • 相続後の空き家特例は、親が施設に入っていた場合でも一定の要件を満たせば対象となる場合があります
  • 空いた実家を人に貸すと、制度によっては特例が使えなくなる場合があります
  • 判断能力が低下すると、売却の手続きが大きく変わります

親が施設に入った。実家は空いたまま。

「売ったほうがいいのか」「戻ってくるかもしれないから残すべきか」。決められないまま、固定資産税だけが毎年届きます。

調べてみると、この判断には順番がありました。 急いで売ることが得とは限らず、よかれと思って貸すと損をする場合もあります。

手順を6つに分けて書きます。

目次

手順① 誰が売ることになるかを整理する

まず、ここを分けてください。使える税の特例が変わるからです。

親が生きている間に売る親が亡くなったあとに売る
売主親本人相続人(子など)
主な特例居住用財産を売ったときの3,000万円特別控除被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
期限の起点住まなくなった日相続が始まった日

名前が似ていますが、別の制度です。 要件も期限も違います。

どちらも「売って利益が出たときの税金(譲渡所得税)」を軽くする特例です。利益が出なければ、そもそも税金はかかりません。 購入時の価格と比べて、売却益が出そうかどうかも確認しておいてください。

手順② 親の判断能力を確認する

親が生きている間に実家を売却する場合、原則として所有者である親の意思と手続きが必要です。

親が自分で判断し手続きできる状態であれば、親自身が売却を進めます。 一方、判断能力が低下している場合は、成年後見制度などの利用が必要になることがあります。

判断能力が低下すると、手続きが大きく変わります

認知症などで判断能力が十分でない場合、本人の名前で売買契約を結ぶことが難しくなります。

その場合は成年後見制度を使うことが考えられますが、成年後見人が本人の居住用の不動産を処分する場合には、家庭裁判所の許可が必要になります(民法859条の3)。

後見人であっても自由に売れるわけではなく、家庭裁判所の許可など、必要な手続きを経る必要があります。

施設に入っていても、実家が「居住用」として扱われることがあります。「後見人をつければすぐ売れる」わけではありません。

親の判断能力が十分なうちに、家族信託などを利用して、将来の財産管理や売却についてあらかじめ仕組みを作っておく方法もあります。

ただし、信託契約の内容によって、受託者(任された子など)ができることが異なります。 専門家に相談しながら設計することが大切です。

成年後見と家族信託の違いは、認知症で親の口座は凍結されるのかにまとめました。どちらも、判断能力があるうちのほうが選択肢が広がります。

手順③ 生前に売るなら期限を確認する

親が売る場合の「居住用財産の3,000万円特別控除」には、期限があります。

住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで

たとえば2026年5月に施設へ入居し、そこから実家に住んでいない場合、2029年12月31日までの売却が目安になります。

施設入居の場合の扱いは、個別の判断になります

ショートステイや入院のような一時的な不在なら、引き続き住まいとして扱われることがあります。

一方で、住民票が実家に残っているからといって、必ずしも実家で生活していたことになるとは限りません。 実際の生活状況や施設への入所状況など、制度ごとの要件を確認する必要があります。

「いつから住まなくなったことになるのか」は、状況によって判断が分かれます。売却を考え始めた段階で、税務署か税理士に確認してください。

手順④ 急いで売る前に考える

期限があると聞くと、急いで売りたくなります。ただ、急ぐことが得とは限りません。

確認したい4つのこと

  • 親が戻る可能性はあるか(リハビリ目的の入所、状態の回復など)
  • 施設の費用に、売却代金が必要か
  • 親の預貯金だけで、当面の費用をまかなえるか
  • 相続税がかかりそうな資産規模か(売ることで計算に影響する場合があります)

4つ目は見落とされやすい点です。

売ると、相続税が増えることがあります

家を売却して現金化すると、相続時の財産の内容が変わります。

土地や建物は、相続税の計算上、売却価格とは異なる方法で評価されます。 一方、現金は額面で評価されます。そのため、家を売って現金にしたことで、相続税の計算に影響する場合があります。

ただし、実際に相続税が増えるかどうかは、財産の内容や相続人の人数、各種の控除・特例などによって異なります。

また、親が老人ホーム等に入所していた場合でも、一定の要件を満たしていれば、以前住んでいた自宅の土地について小規模宅地等の特例(相続税の評価を下げる特例)を利用できる場合があります。誰が相続するのか、入所前後の利用状況などによって要件が変わるため、個別の確認が必要です。

相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。 資産がこれを超えそうなら、売る前に税理士に相談する価値があります。

逆に、施設の費用を払うために売却代金が必要なら、話は別です。 生活を守るための売却は、税の損得より優先されます。

施設の費用は、老人ホームの費用相場にまとめています。

手順⑤ 残すなら管理と使い方に注意する

すぐには売らない、と決めた場合です。

空き家の管理

  • 湿気やカビを防ぐため、定期的に換気や清掃を行う
  • 郵便物がたまらないようにする(転送届を出す)
  • 庭木や雑草の手入れ
  • 火災保険の契約内容を確認する(空き家になると条件が変わる場合があります)
  • 水道・電気・ガスをどうするか決める

遠方で通えない場合は、空き家の管理を代行するサービスを提供している事業者もあります。

管理の状態によっては、税負担が増える場合があります

空き家になっただけで、固定資産税が上がるわけではありません。

ただ、2023年12月に施行された改正空家等対策特別措置法で、「管理不全空家」という区分ができました。空き家を適切に管理せず一定の状態になると、市区町村から勧告を受ける場合があります。

勧告を受けた場合、住宅用地に対する固定資産税の軽減措置が適用されなくなり、税負担が増える可能性があります。 残すなら、管理が前提です。

貸すと特例が使えなくなる場合がある

ここが、いちばんの落とし穴です。

「空けておくのはもったいないから、人に貸そう」。自然な発想ですが、後の選択肢に影響することがあります。

家を貸した場合に税制上の特例が使えなくなるかどうかは、利用する制度によって異なります。 特に「親が生前に売却する場合」と「親の死亡後に相続した家を売却する場合」では、適用される特例も要件も違います。

特例貸した場合の扱い
生前に親が売る場合の
居住用財産の特例
転居後の利用について別の取り扱いがあります。期限との関係も含めて確認が必要
相続後の空き家特例施設入所後に貸したり事業に使ったりしていると、対象外になります
相続税の小規模宅地等の特例施設入所後に貸していると、居住用としての適用が受けられない場合があります

家族が住む場合も、条件によって扱いが変わります。貸す・誰かが住む前に、どの特例を利用できる可能性があるのかを税理士に確認してください。

手順⑥ 相続後に売るなら空き家特例を確認する

親が亡くなったあと、相続人が実家を売る場合の特例です。

2019年の税制改正で、親が老人ホーム等へ入所していて空き家になっていた場合でも、一定の要件を満たせば対象となる場合があるようになりました。

ただし、要介護・要支援認定を受けていることだけで、特例が利用できるわけではありません。 施設への入所が特例上の事由に当たるか、入所後の自宅の利用状況など、細かな要件を確認する必要があります。

施設に入っていた場合の主な条件

  • 親が要介護認定または要支援認定を受けていた(施設に入る直前の時点で判定)
  • 特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、老健、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅などに入っていた
  • 入所後、実家を貸したり事業に使ったりしていない
  • 入所後、親以外の人が住んでいない

注意したいのは、親族の家で同居して介護を受けていた場合は、この条件に当たらないとされている点です。

建物と売却の条件

項目主な条件
建物1981年(昭和56年)5月31日以前に建てられた家。マンションなど区分所有の建物は対象外
耐震耐震基準を満たすか、取り壊して土地だけで売る(2024年以降は買主が改修・解体する場合も一定の条件で対象)
売却価格1億円以下
売却の期限相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
制度の期限2027年12月31日までの売却(2026年9月時点)
控除額最大3,000万円。2024年以降、相続人が3人以上なら1人2,000万円まで

税制は改正される可能性があります。 制度や期限は、売却する時点で国税庁や国土交通省などの最新情報を確認してください。

特例を使うには、実家のある市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受け、確定申告をする必要があります。 施設に入っていた場合は、要介護認定を受けていたことや施設の情報を示す書類も求められます。

いまから残しておける書類

相続後に書類を集めようとすると、見つからないことがあります。いまのうちに保管しておいてください。

  • 介護保険の被保険者証(要介護度が分かるもの)
  • 施設の入所契約書
  • 実家の登記簿や建築時期が分かる書類
  • 固定資産税の通知書

相続登記も忘れずに

2024年4月から、相続登記が義務になりました。 不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記の申請が必要です。

亡くなったあとの手続き全体は、介護が終わったあとの手続きに期限順でまとめました。

家族で話しておきたいこと

実家は、お金の問題であると同時に、親にとっての思い出の場所です。

「売る」という話を急に出すと、施設に入ったことを「もう戻れない」と突きつけるように受け取られることがあります。

「お父さんが戻ってきたときのことも考えたいんだけど、家のことはどうしておきたい?」

親の意向を先に聞いてください。 そして、きょうだいがいるなら、相続後のことも含めて早めに共有しておくと、あとで揉めにくくなります。

家族での話し方は、介護の話をどう切り出すかと兄弟が介護に協力しないときもご覧ください。

まとめ|売る前に順番を確認する

  1. 誰が売ることになるかを整理する

    生前なら親、相続後なら相続人。使える特例が違います。

  2. 親の判断能力を確認する

    原則は親の意思と手続き。判断能力が低下すると成年後見などが必要になることがあります。

  3. 生前に売るなら期限を確認する

    住まなくなった日から3年を経過する年の年末までが目安。個別に確認を。

  4. 急いで売る前に考える

    売ることで相続税の計算に影響する場合があります。施設費用に必要なら話は別。

  5. 残すなら管理と使い方に注意する

    貸すと、制度によっては特例が使えなくなります。管理の状態にも注意。

  6. 相続後に売るなら空き家特例を確認する

    一定の要件を満たせば対象となる場合があります。書類はいまから保管を。

実家の判断に、正解は1つではありません。 親の意向、施設の費用、資産の規模、きょうだいの考え。それぞれで答えが変わります。

ただ、「貸す」「売る」を決める前に一度だけ専門家に確認する。それだけで避けられる損があります。

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出典・参考

  • 国税庁 タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」(住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却)
  • 国税庁 タックスアンサー No.3307「被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」(特定事由、要介護認定等の判定時期、入所後の使用制限)
  • 国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)」(昭和56年5月31日以前の建築、区分所有建物の除外、売却価格1億円以下、適用期限2027年12月31日、2024年以降の相続人3人以上は2,000万円、被相続人居住用家屋等確認書)
  • 民法 第859条の3(成年後見人による居住用不動産の処分についての家庭裁判所の許可)
  • 空家等対策の推進に関する特別措置法(2023年12月施行の改正/管理不全空家への勧告と住宅用地特例の解除)
  • 不動産登記法(2024年4月1日施行/相続登記の申請義務)

この記事の情報は2026年9月時点のものです。当サイトは税理士事務所・法律事務所ではなく、記載内容は個別の税務・法的判断を目的としたものではありません。特例の適用可否は、居住の実態、施設の種類、入所後の家屋の使い方などによって判断が分かれます。売却・賃貸・相続の前に、税務署、税理士、司法書士、弁護士などの専門家にご確認ください。

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